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263 第18話03:Tell us your swordplay!③




 ロンドニアの鱗は岩のように分厚く硬く、そして黄金色に輝くのだそうだ。

 性格は正直者、そして受けた恩義は絶対に忘れない大層な律義者とのことである。

 ただし、普段は眠っていて、話もできないらしい。

 龍王国ドラガニア首都に留まっているのも、その性質、性格ゆえであるとのことで、その昔、龍王国ドラガニアの開祖、初代女王と幼き頃出会い、共に苦難を乗り越え合った経緯から、彼女の子孫をずっと守護しているのだそうだ。

 数百年前、まだモーデル王国が存在していなかったころの話だが、一度だけドラガニアを攻めた他国の軍勢相手にその力を奮ったことがあるらしく、数万の軍隊をたった一発の龍魔咆哮(ブレス)で跡形もなく消し去った伝説があるのだそうだ。


 因みに、この伝説はさすがに大袈裟であろうとつい最近までは考えられていたそうだが、半年ほど前に古都で起きた事件により見直されている。言うまでもないが、エルザルドのお陰、というか所為(せい)であろう。



 三番目はリーグニット=シュテンドルフ。

 最古龍中の最古龍と、非常に古い文献に記されておるのみで、龍族全体の長と伝えられることもあるらしい。ただし、少なくともヒト族の前に姿を現した記録はなく、姿形も不明とのことだ。

 さすがにこれはエルザルドのことであろうとハークにも解る。エルザルドのフルネームはエルザルド=リーグニット=シュテンドルフである。名前の一部が伝わっていないのであろうか。



 四番目はアレクサンドリア=ルクソール。

 『紅蓮龍』や、『地獄龍』、『暴龍』、『邪悪龍』などとかなり物騒な字名(あざな)をいただいている。そのことから解る通り、かなり昔の話ではあるが、相当の暴れ龍と恐れられていたらしい。

 ここ千年ほどは人間種の生活圏で目撃されたことはなく、滅んだか、ひょっとすると何者かに退治されたのではないかとも考えられている。

 『ユニークスキル』持ちであれば不可能ではない、ということが根拠であるようだが、エルザルドと同等の存在であるのならば、ハークには納得がいかない。

 『紅蓮龍』との名の通り、真っ赤な鱗に包まれた存在である。

 おとぎ話で、旅の途中にとある料理人の男が赤い龍に運悪く出会ってしまい、見逃して欲しいと持っていた物全てを差し出そうとしたところ、丁度野営の途中で温めていたシチューを要求され、大人しくそれを供出したらそれ以上何の危害も加えずに去ったというものがあるらしい。

 単なるおとぎ話の可能性もあるし、その赤き龍がアレクサンドリアと同じ龍であるとの確証もないが、もしかしたら万一遭遇したとしても美味なる料理を提供できれば無事に切り抜けられるかも、と書いてあった。



 名を記載された最後の龍はキール=ブレーメン。

 全長三十メートルほどの典型的な巨大龍で、茶系の鱗を持ち、普段は大海を根城とするらしい。性格、性質は冷静沈着で、いわゆる『話せば分かる』タイプ、と記されている。

 ここまで詳細な記載が載っているのには理由があり、何とエルフ族と関係浅からずであるとのことなのだ。キールの大好物がエルフ族の作るエルフ米、その米から作られる酒であるから、ということらしい。

 ハークは前世で呑んだことはあったが、まさか今世でも同じようなものが存在していたとは知らなかった。殆ど傷の消毒代わりにしか使ったことはなかったが、いざ存在を知ってしまうと、あの懐かしき香りが思い起こされるかのようだ。



 ここからは異名のみしか書かれていない。名が伝わっていないのであろう。

 一体目は『紅毛龍』と書かれている。

 色からアレクサンドリアを想起できるが、鱗と共に体毛を備える珍しい龍であることから別の龍と考えられているようだ。

 人間種に危害を加えたという記録は一度もなく、寧ろ魔物に襲われていた商隊を助けたり、魔族が率いる軍勢に滅ぼされる寸前だった国や街を救ったという伝承が残され、大陸に残る龍信仰の大元とも目されている。

 龍王国を名乗る国はドラガニアの他に東大陸にも存在するらしいのだが、その国で信仰される龍族ではないかとも言われているらしい。



 最後は『白龍』。

 真っ白な体毛を持つ非常に珍しい龍族であり、氷と雪に閉ざされた凍土の奥、氷山の頂点に住まうと言われている。

 季節外れの猛吹雪を産み出す存在と、遥か昔から北の地方で口伝えされていたのだが、千年近く前を生きた高名な魔物狩り師が正体をつかむために氷山を登ってみたところ本当にいたという。しかし、快晴だったにも拘らず、急に辺りが視界が利かなくなるほどの猛吹雪に包まれ、しばらく経って吹雪が収まった頃、その巨大な姿は影も形もなくなっていた、との話である。

 極寒地方には他の幾つかの地域でも同様の伝承などが多数見られ、単なる伝説の存在ではなく、その実在を物語っているようだ。

 『紅毛龍』と共に名が全く知られていないのは、姿は見せても双方共に人間種と言葉を交わした記録が皆無であるからであるらしい。



 これらの強大な存在と出会う可能性など限りなくゼロに近いだろう。だが、万が一、いや、億が一にでも顔を合わせてしまった場合に正しく生き残るべく行動ができるようここに記す。と、エタンニは結んでいる。

 確かにその通り。正しき(・・・)知恵、そして知識は力なのだ。


 ハークはエルザルドを起動させた。

 無論、エタンニからの冊子で得た知識を改めて確認するつもりである。


 まずはガナハの身体の大きさを尋ねる。


『人間種の使う単位で測ったことはないが、生前の我が肉体の半分程度であるというのであればその通りだな。彼女は最古龍とされる者達の中で最も身体が小さいな。だが、その小ささに反比例するように速いぞ』


『成程な。次にエルザルド。お主自身のことなのだが、名が途中からしか人間種には伝わっておらぬのだな』


『ああ、そうかも知れないな。我がファーストネーム、エルザルドの名は『赤髭卿』ヴォルレウス=ウィンベルから贈られたものなのだよ。そうなるともう三百年近く経つということか。早いものだ』


『何⁉ 『赤髭卿』だと⁉』


 いきなり前触れもなくとんでもない情報が飛び出し、さすがのハークも動揺せざるを得ない。


『恐らくハーク殿が読んだ情報の大元は千年以上前の文献からであるのだろうな。それくらいならば我も人間種との付き合いを僅かながら持っていた』


 エルザルドの独白も、半ば耳を、脳を素通りしてしまう。それ程の衝撃でもあった。


『……そうか。だからエルザルドは龍族であるにも拘らず、人間種の英雄である『赤髭卿』にもあれほど詳しかったのだな』


『うむ。その通りだ』


『実際の彼は本当に強かったのか?』


『そうだな、とんでもなく強いぞ。モーデル王国所属となる前の一冒険者時代から既に相当なものだった。今のハーク殿と虎丸殿が共に戦ったとしても、勝つのは相当に難しいであろうな』


『儂は兎も角、虎丸もか。徒手空拳だと聞いたが、フーゲインと似たような戦い方だったのか?』


『あの鬼族の青年とは全く違う。武器を使わぬ戦い方であるので似通ったところもあるかも知れないが、源流が異なっておるのを知っておるからな。戦い方としては……そうだな、ランバートという者に近い』


『『バスター・ウォー』という技か』


『彼はあの技を滅多に使うことはなかったらしいが、見たことはある』


『前にヴィラデルから聞いたことがあったが、魔法と物理の複合攻撃も使ったらしいな。彼は今で言う『湯肉(ゆにく)スキル所持者』、つまりは『勇者』だったのか?』


『いいや。彼は『勇者』ではない。『ユニークスキル』は一切、持っていなかった』


 エルザルドは間髪も入れずに答えた。





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