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253 第17話16:ジョーカー②




 瓦礫より助け出された捕虜三人の内二人をエヴァンジェリンは肩に引っ掛けるように次々と担ぎ上げ、残る一人を小脇に抱えながら戦闘地域より離させた。


「ロク! ゲン! ゴウ!」


 頭領であるリンが呼びかけるが反応はない。全員、骨折以上の大怪我を負っている。血を吹き出し続けている者もいた。見るからに危険な状態だった。


「回復班!」


 即座に呼ばれたワレンシュタイン軍の回復魔導士たちが一斉に仕事を始める。全てを治すとすれば魔法力が尽きてしまうので、命に係わるものだけに絞り、外傷などは回復薬も併用していた。

 頷いた回復魔導士たちにエヴァンジェリンは頷き返してから口を開く。


「もう大丈夫だよ」


「ほ、本当ですか⁉ ありがとうございます!」


「礼なら、あの従魔殿とその主に言うのだね」


「え⁉ ……う……は、はい……」


 頷きながらも、リンはまだ心の中で抵抗があるのだろう。礼を言うべきどちらか、或いは両方が、親の仇であれば仕方ないとも言えるものであった。

 エヴァンジェリンは勿論そのことを詳しくは知らない。だが、先程の悶着である程度は察せられぬものでもなかった。

 だから、敢えて話題を変える。


「ところで東側は魔法に関しての知識があんまりないって聞いたけど、回復魔法もなのかい?」


 エヴァンジェリンのこの質問は、リンを含めた侵入者達が、揃って物珍しそうに回復魔導士たちの行動を眺めていたことに端を発していた。


「え、ええ。回復魔法に関しては、我々は良く解っていません。使い手も、殆どいません」


「回復薬はどうなんだい?」


「回復薬はあります。ただ、値段が高い上に、あそこまで色が濃いものはありません」


「え? じゃあ、怪我をしたらどうするんだい?」


「どうもしません。傷口をよく洗ったり、縫い合わせたりする程度です」


「それだけ⁉ じゃあ、手足を失ったら⁉」


「戦いからは退くことになります。引退です……。もしくは……」


 リンはそこで言葉一度切ってから、再度口を開く。


「……アレに……、……『キカイヘイ』になります」


 彼女は震える手である一点を指差した。




 ヴィラデルは、ふうっ、と一息吐いて言う。


「参ったわねェ。全く効いてないわ」


「まさか、本当に失われたっつうゴーレムなのか?」


 フーゲインの呟きに似た質問に答えるのは、そのままヴィラデルであった。


「いいえ、ゴーレムじゃあないワね。そもそもゴーレムの作成技術って、別に失われていないワよ?」


「何い⁉」


「えぇ⁉ 寄宿学校とか士官学校ではそう教わったんだけど、違えの⁉」


 いきなりの前提条件が崩れるヴィラデルの発言にランバートとフーゲインは主従揃って驚愕の声を上げる。ハークとて声こそ出していないが同じ気持ちであった。ギルド寄宿学校では魔法科の授業はおろか、歴史の授業でもそう教わったのだから。


「ヴィラデル殿、スマンがかいつまんで教えてくれねぇか?」


 ランバートが、戦闘中でなければ頭も下げそうな勢いで訊く。

 ソーディアンの寄宿学校で講師を経験したヴィラデルは、いかにも講師めいた口調で話を始める。


「ええ、良いわよ。よく聞いてネ。ゴーレムはエルフの里では割と普通に使われているわ」


「い⁉ そうなのか⁉」


 フーゲインの驚愕は尚続く。ハークも同じで、幾分安堵もしていた。やはり自身の種族関係で滅多なことは言うものではない。


「ただし、そんな便利なものでもないわよ。土塊(つちくれ)や泥とか砂とか使って造られたものばかりで脆いし力も弱いわ。小さな子供程度くらいかしらね」


「全然イメージ違うな。俺が聞いたのはデカくて硬くて、……あんな感じだぜ」


 フーゲインの言う通りだ。ハークもそう教わった。だからこそ、二体の敵をゴーレムと断定することにも違和感がなかったのだ。


「アタシも里を出てから知ったのだけれど、それはエルフ以外のイメージね。里のゴーレムは果実や穀物などの収穫に使われたり、子供たちが遠くに行かないようにするくらいヨ」


「人畜無害過ぎるな。だとすると、俺らが良く知るゴーレムってのは?」


 意外感を滲ませたまま今度はランバートが訊く。


「あれはその昔にヒト族なんかが造り出した完全なる失敗作ね。里の老人に聞いたのだけれど、ヒト族は与えた技術をすぐに軍事転用するのがお得意らしくてね」


「…………」


「岩とか鉄とか、果ては溶岩とかまで使って巨大に、そして力も強く創造したようだけれど、ゴーレムにはそれほど複雑な命令に従うなんてできないもの。拠点防衛用に使用したって、敵味方の区別はつかないものね。創造主の顔くらいは認識できるようにもしてやれるでしょうけれど、後ろを向けたら同じだしね」


 それを聞いてシアがやや呆れたような口調で返す。


「そりゃア、また随分と間の抜けたハナシだねぇ。でも、っていうことは……⁉」


「ええ。対象に気付かれぬよう追尾及び監視、後に裏切り者と自己で判断して抹殺行動に移る、なんてゴーレムには百パーセント無理な話ね。もしかしたら、ゴーレムの技術を流用している可能性もないとは言えないけど、中身は別物、と捉えた方が良いんじゃあないかしら」


「成程な。実情を知る彼女にも話を聞きたいところだが、中断せざるを得んな。だが、確か『キカイヘイ』とか言っていたか」


 ハークの言葉に皆頷くとハーク、虎丸、シア、ランバート、フーゲイン、そしてヴィラデルまでもが近接戦の構えを取る。

 『キカイヘイ』らはハーク達の前方約十メートル手前で停止した。


 曲線を描く胴体は岩か鉄に似た鉱物かのようだが、この距離で視ると若干に黒く光ってもいる。そこから突き出たかのような腕は筒の様な指や腕、肩の部分があり、関節部分は蛇腹状の管のように視える。股から生える足も似たような構造だ。

 ただし、腕は太くやや長いのに比べて足は短く、異様に腕長短足である。

 大きさはかつてのサイデ村が予定地だった頃に住み着いていたトロールの六メートル程度と変わらない。アレは胴長短足だったがそういう意味でも印象的に思い起こされる。


 約十メートルの感覚ではハークらは勿論、『キカイヘイ』達でさえそのまま近接攻撃が届く距離ではない。

 しかし、先程の挙動から判断するに、油断などできる筈もなかった。


「ドケ。我ラノ役目ヲ邪魔スルナ」


「やはり喋るかよ。役目とはなんだ?」


 ランバートが言葉を返す。疑問形であったが大して答えを期待してはいなかっただろう。

 しかし、果たして『キカイヘイ』からの返答があった。


「裏切者ヲ始末スル。貴様ラノ相手ハソノ後ダ」


「違うな、恭順者だぜ。もう帝国にはついていけねえってよ」


「ドチラデモ同ジコト。邪魔ヲスルノナラ共ニ滅スルマデダ」


 左右に並んで立つ『キカイヘイ』が揃って右腕を突き出す。左腕がそれを支えるかのように右の二の腕へと添えられた。


〈⁉ 魔法か⁉〉


 構えからするとそうとしか思えなかった。

 ただ、奇妙な点が二つ。

 通常、魔法発動は指先を目標地点に向けたり手の平を開いて向けるものである。しかし、右手は固く握られ拳を作っていた。


 もう一つの奇妙な点とは周囲の精霊に殆ど動きが視えぬことだった。

 魔法を使用するとすれば、それは精霊を集め動かすことと同義である。より多くの精霊を従え、操作することこそが魔法の威力を左右するのである。半年間強の学びの時がそれをハークに教えてくれていた。

 だからこそ魔法は、近接系のスキルと比べて発動の際の時間を必要とするのである。


 魔法発動の最初期段階、精霊たちのざわめきが一切ない。

 しかし、赤き火の精霊だけは僅かに動きを見せていた。まるで炎に引き寄せられる前世の羽虫の如くに。

 何かが(・・・)飛んでくることに備えられたのは、ハークの経験を持ってして尚、奇跡に近いものであったのかも知れない。


「「ロケットブースト・パンチ」」


 何かが爆発したかのような音が二つ炸裂すると同時に、ハークの視界の中で『キカイヘイ』の右拳が突然、何倍にも膨れ上がっていた。


〈腕が、伸びたのか⁉〉


 意外な攻撃法且つ予想外の速度で迫る物体を、ハークは勘一つで避けた。

 あの虎丸ですら念話での注意喚起を行う暇すら皆無であったのだ。その速度は推して知るべしであろう。

 それだけに、ハークは避けるしかなかった。いや、避けてしまった。


「危ないっ!」


 この時になってハークは漸く気づいた。ほぼ見得ぬままに何とか躱した攻撃が何であったかを。

 『キカイヘイ』の右腕、肘辺りから先がちぎれ、後方に炎を撒き散らせながら凄まじい速度で飛翔していたのだ。まるで砲弾かのように。

 そしてそれは、ハークの後方凡そ百メートルの地に立っていたリィズへと真っ直ぐに向かっていた。


「お嬢ー!」


 咄嗟に気付いたエヴァンジェリンが我が身を顧みず身を呈するのが視えた。彼女の着る鎧の破片が散ったのはその直後だった。


「エ、エヴァーーー!」


 フーゲインの悲鳴にも似た叫びが響いた。





※ここから、作者はストリートファイターⅤ『ネカリのテーマ』を聴きながら描いております。


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