貴音の家に天ちゃんが転がり込んできたのです(貴音side)後編
「私を今日からこの家の娘に……お姉さんの妹にしてください!」
――えぇええええっ! 天ちゃん、いきなり何てこと言いだすのですかぁああああっ! おねえちゃんの妹は貴音ひとりでいいのです!
「い、いや……それはできないよ」
「何でですか!? 私、お姉さんのこと好きですよ! もし私が住むことでお風呂に入る時間が短くなるようでしたらお姉さんと一緒に入ります! 布団がないようでしたらお姉さんのベッドで一緒に寝させてください」
ダメなのですぅううううっ! おねえちゃんと一緒にお風呂入っていいのは貴音だけなのです! ベッドに入っていいのも貴音だけなのです!
あっ……でもおねえちゃん、何かニヤけた顔をしているのです。これはお仕置きが必要なのです!
「ぎゅぅううううっ」
貴音はおねえちゃんの腕をつねったのです!
「おねえちゃん、調子に乗ってはダメなのです!」
「えっ、べべべ別に調子になんか乗ってないよ」
貴音に怒られたおねえちゃんは、再び天ちゃんの説得を続けたのです。
「それはダメ! もし天ちゃんがウチの子になったら天ちゃんのご両親や空ちゃんが悲しむでしょ」
おねえちゃんを取られたら貴音も悲しむのですぅううううっ!
「そんなことないです! お母さんは絶対に成績が良い空のことだけ気に入ってるのよ! 双子なんて……本当はひとりだけ生まれてくれば十分なのに、二人生まれちゃったから迷惑なのよ! だから私なんか……本当はいなくてよかったのよ!」
天ちゃんはとんでもないことを言い出したのです。すると天ちゃんの言葉を聞いたお姉ちゃんの表情が急に険しくなったのです。
「天ちゃん! それは違っ……」
と、そこへ……
「天! それは絶対に違うぞ!」
ママさんも乱入してきたのです。ママさんとおねえちゃんは天ちゃんの「二人生まれてきて迷惑」という言葉に腹を立てていたのです。
「天のお母さんはね、たとえ空の成績が良くて天がバカだったとしても絶対に二人とも見捨てないよ! だって……どっちもお母さんの子じゃん」
「えっ……グスッ……でも……グスッ……だって……グスッ」
ママさんの言葉を聞いた天ちゃんは泣き出してしまったのです。でも他人の言うことに耳を貸さない暴走機関車の天ちゃんはまだ納得していないのです。
「空だって天のこと嫌ってないし心配しているハズだよ」
さらにママさんがそう言うと、
〝ピンポーン!〟
「あっ、空ちゃんが来たのです」
絶妙なタイミングで空ちゃんが迎えに来たのです。
「えっ、ちょっと……グスッ、何で空が……あっ、まさか!?」
「貴音が呼んだのです」
貴音は玄関に行って空ちゃんを招き入れると、空ちゃんは無言のまま貴音の部屋へ一直線に向かっていったのです。
「ち……ちょっと! 何よ空! あっ、アンタの顔なんか見たくな……」
部屋に入った空ちゃんは、抵抗を続ける天ちゃんに真っすぐ近づくと……
〝ぎゅっ〟
――天ちゃんを強く抱きしめたのです。
そして空ちゃんは、天ちゃんにこう言ったのです。
「空は……天がいないと何もできない。だから……一緒に帰ろ」
涙を流して抱きしめている空ちゃんに、天ちゃんは……
「ま……まぁ、空がそう言うんだったら……かっ帰っても……いいけど」
目に涙を浮かべながら、いとも簡単に落ちたのです。
空ちゃんは地球上で唯一、天ちゃんを上手に扱える子なのです。
※※※※※※※
その後……落ち着きを取り戻した天ちゃんが、空ちゃんと一緒に帰ろうとしたらママさんに呼び止められたのです。ママさんは二人に夕ご飯をごちそうすると言ってきたのです。
しかも、おねえちゃんがハンバーグを作ると言い出したのです♥
ママさんとおねえちゃんの二人は、キッチンに立って夕ご飯の準備をしていたのです。貴音は天ちゃん空ちゃんとゲームをしていたのです。
「お姉さんのハンバーグ、とってもおいしいんでしょ? 楽しみー」
「楽しみー」
天ちゃんはすっかり上機嫌になっていたのです。貴音は学校で「おねえちゃんの作るハンバーグがおいしい」と天ちゃんに話していたのです。
でも今、貴音は「ある疑問」で頭がいっぱいだったのです。貴音はキッチンにいるママさんとおねえちゃんにその疑問をぶつけてみたのです。
「ママさん、おねえちゃん……貴音は疑問があるのです」
「えっ、何?」
「天ちゃんが『双子は迷惑』と言ったとき、ママさんとおねえちゃんはものすごく真剣な顔をして怒ったのです。なぜなのです? おねえちゃんは元々ひとりっ子なのです! 双子のことはわからないハズなのです」
貴音の疑問を聞いたママさんとおねえちゃんは顔を見合わせたのです。そしておねえちゃんは貴音にこう言ったのです。
「実はお姉ちゃんね……お姉ちゃんだけど妹なんだよ」
――へっ?
なぞなぞなのですか?
おねえちゃんはおねえちゃんなのです! 妹じゃないのです!
「えっ、なっ……何なのです? 意味がわからないのです」
貴音の頭の中で、さらに謎が深まっていったのです。
※※※※※※※
「いただきまーす」
今夜は天ちゃん空ちゃんも一緒に夕ご飯を食べたのです。おねえちゃんの作ったハンバーグはやっぱりおいしかったのです! でも……
「おねえちゃん、この前作ってくれた方がもっとおいしかった気が……」
貴音は隣に座るおねえちゃんに小声でささやいたのです。おねえちゃんは……
「肉が違うんだよ……エーゴとハンガクだぞ」
――意味がよくわからないのです。
「このハンバーグってお姉さんが作ったんですよね? おいしいです」
「です」
天ちゃん空ちゃんも気に入ってくれたのです……そうなのです! おねえちゃんは貴音の自慢の「王子様」なのです!
「よし、決めた! 天が大人になったらお姉さんをお嫁さんにする!」
「空も」
――えっ……えぇええええっ!
何を言い出すんですかこの双子はぁああああっ!?
おねえちゃんは貴音のお嫁さんなのですぅううううっ!
※※※※※※※
「おじゃましましたー!」
「ましたー!」
「おー天空! 気をつけて帰れよー」
夕ご飯を食べた天ちゃん空ちゃんが家に帰るので、貴音たちは家の前で見送ったのです。辺りがすっかり暗くなった道路を、二人は手をつなぎながら仲よく帰っていったのです。
すると突然、おねえちゃんが天ちゃんを呼び止めたのです!
「ねぇ天ちゃーん! 貴音の順位って何番だったか知ってるー?」
えぇええええっ!? ここでいきなり何を聞いてくるのですかぁああああっ!
天ちゃんは振り向くと、笑顔で答えたのです。
「あっ、私よりふたつ下でーす!」
言ったらダメなのですぅううううっ! でも順位は言ってないので、天ちゃんの順位を覚えていなければわからないので……
「ふーん、天ちゃんが五十九位だって言ってたから……六十一位かぁ」
――覚えていたのですぅううううううううっ!
二人を見送ったママさんとおねえちゃんは、今度は貴音の顔を見たのです。
そして……
「貴音ちゃ~ん♥」
「約束通り、一週間ゲーム禁止ね♥」
て……天ちゃんのバカぁああああああああっ!!
貴音なのです。この作品にはヒューマンドラマっぽいお話もあるのです。




