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嫌われようと努力したのに、今日も攻略対象に追いかけられています。  作者: 限界まで足掻いた人生


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85話 混沌への賭け

荒波の中を逃れる漁船の船室は、狭く、熱気に満ちていた。私たちは、追撃から逃れた安堵と、未だ残る危機感の中で、息を潜めていた。


クロード王子は、冷静に千鶴の杖を検分していた。憎しみを捨て、感情を取り戻した彼は、知神アザトースの知識と武神の血の残滓、そして人間的な運命への意志という、矛盾した力を使いこなそうとしていた。


「千鶴の力を利用する。そのために、まずは対話の場を設けなければならない」


クロード王子は言った。


「対話、ですか?」私が尋ねる。


「ああ。千鶴は、この封印を究極の混沌と見なすだろう。彼女の望む不確定な舞台を保証すれば、彼女は喜んで協力する」


レオンハルト殿下は、顔色を悪くした。


「ですが、殿下。千鶴は、この世界の運命を弄ぶ悪神です。彼女を信じるのは、あまりに非合理では?」


「非合理だからこそ、千鶴は乗る」クロード王子は冷徹に言い放った。「アザトースの支配下にある大皇国との戦いは、合理性の破綻を示した。今、最も合理的なのは、非合理の極みを利用することだ」


彼の論理は、人間的な愛の上に、アザトースの知識を逆利用するという、恐るべきものだった。


「リリアーナ。お前が、千鶴との連絡役となる」


「私が?」


「千鶴は、運命の始まりと不確定性に強い興味を持つ。お前は、この世界の運命の始まりを創り出し、混沌の渦の中心にいた。彼女は、お前との接触を拒まない」


クロード王子は、千鶴の杖を私に手渡した。


「俺たちが目指すのは、時の特異点。そこで、俺が封印の論理を構築する間、お前は千鶴の混沌の力を引き出し、運命の壁の基盤を築くのだ」


混沌の呼び声

私たちは、船が安全な海域に入ったことを確認した後、船室に集まった。本物のリリアーナは未だ意識不明だが、彼女の命は安定している。


私は、千鶴の杖を両手で持ち、静かに目を閉じた。私の心の中には、クロード王子への運命への強い意志が満ちている。


「千鶴…鶴神千鶴…」


私がその名を呼ぶと、杖が黒い靄を放ち始めた。


「あんたが、わてを呼ぶなんてな」


空間に、千鶴の嘲笑が響いた。


「クロード王子との交渉は決裂した。知神アザトースは、この世界を排除しようとしている」


私は、冷静に状況を伝えた。


「そして、武神は退場した。混沌の原動力を失った今、あんたが望む究極の不確定な物語は、終焉を迎える。それが、知神アザトースの秩序だ」


千鶴の笑い声が、途切れた。


「…究極の不確定な物語…」


「そうだ。私たちは、この世界を、カミの支配から完全に切り離す、運命の壁を築く。その壁は、武神もアザトースも乗り越えられない。しかし、その壁の内側の世界は、あんたが望む、永遠に予測不能な、混沌に満ちた物語となる」


私は、千鶴に取引を持ちかけた。


「我々に協力しろ。あんたの混沌の力を、運命の壁の基盤として組み込む。そうすれば、あんたは、永遠に続く究極の物語の観客となれる。これは、アザトースの秩序を打ち破る、あんたにとって最高の報酬ではないか?」


空間に、千鶴の興奮したような、そして迷うような声が響いた。


「究極の物語の観客…永遠に続く不確定性…」


彼女は、武神の敗北と、アザトースの支配を何よりも嫌っている。私の提案は、彼女にとって、最も魅力的な誘惑だった。


「いいだろう、リリアーナ。その非合理的な賭け、乗ったるで」


千鶴の混沌のエネルギーが、杖から激しく噴き出した。私たちは、カミの力を利用するという、究極の危険を冒しながら、最後の戦場へと向かう。

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