表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われようと努力したのに、今日も攻略対象に追いかけられています。  作者: 限界まで足掻いた人生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/240

83話 地下水道の誓い

私たち一行は、帝都・(アカツキ)の複雑な地下水道を、泥と汚水にまみれながらも、必死に逃走した。アザトースの青い幾何学的な紋様は、確かに地下深くまでは追ってこなかったが、地上では既に、大皇国軍の厳戒態勢が敷かれているのが、時折聞こえる足音と警報から分かった。


レオンハルト殿下は、本物のリリアーナを抱えるクロード王子を援護しながら、疲労困憊の状態だった。人体強化された兵士との戦闘は、彼にとって予想以上の消耗を強いていた。


「クロード殿下、この先は…軍の主要な兵器工場へ繋がっているはずです。そこを通過できれば、港へ抜けられるかもしれませんが…」


「いける。アザトースの論理の盲点は、非合理的な場所だ」


クロード王子は、冷静に答えた。彼の知識は、知神が予測可能な秩序を最優先し、汚れた地下や予測不能な場所を軽視するという弱点を知っていた。


彼が抱える本物のリリアーナは、激しい衝突と、時の境界での消耗が原因で、意識を失っていた。彼女の顔は蒼白だが、その手に握られた千鶴の杖からは、微かな運命の力が漏れ出ている。


「クロード王子…彼女を休ませてあげて」


私は、彼の隣に寄り添い、本物のリリアーナの額に触れた。


クロード王子は、ついに一箇所の広い通路で立ち止まった。彼は、本物のリリアーナを壁に凭れさせると、その手を握りしめた。


「リリアーナ。すまない。俺は、憎しみを捨てた代わりに、合理的という冷徹な判断に頼りすぎた。俺の知識は、大皇国がカミの道具となっている可能性を、非合理的として切り捨てた…」


彼は、初めて自らの過ちを認めた。憎しみを捨ててもなお、知神の知識に支配されていたのだ。


「いいえ、クロード王子」私は彼の頬に手を当てた。「あなたは、人間的な愛を選んだからこそ、彼女の警告を受け入れた。それが、あなたの真の運命よ」


その時、レオンハルト殿下が、周囲を警戒しながら、静かに口を開いた。


「クロード殿下。私たちは、人類の最大の勢力を敵に回しました。封印に必要な人類の意識の集合体という鍵は、もう得られません」


それは、絶望的な事実だった。大皇国を敵に回した今、カミを封印するためのエネルギーは、決定的に不足している。


クロード王子は、地下水道の汚れた床にしゃがみ込み、深く考え込んだ。そして、彼は、新たな非合理的な決断を下した。


「人類の半数の力が必要ならば、別の力でそれを補うしかない」


彼は、本物のリリアーナが持つ千鶴の杖を、静かに取った。


「封印のエネルギー源は、混沌(カオス)だ。千鶴は、この世界の物語を、究極の不確定性で飾りたがっている。俺は、その千鶴の力を利用する」


「千鶴の力を利用する…?」私は驚いた。


「ああ。千鶴の混沌のエネルギーを、封印に必要な運命の壁の基盤として組み込む。混沌と秩序(アザトースの知識)の二つの相反するカミの力を、俺たちの純粋な運命で強制的に融合させ、永続的な矛盾を生み出す」


それは、カミの力を利用するという、極めて危険で非合理的な賭けだった。一歩間違えれば、世界は永遠の混沌に陥るだろう。


「この計画は、アザトースが最も予測できない、千鶴の意志に頼るという非論理的な選択だ。しかし、これこそが、俺が人間として下せる、世界を救う最後の選択だ」


クロード王子は、愛と憎しみを越え、ついに知神の知識からも脱却した。彼は、自らの運命の意志に基づいて、最後の決断を下したのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ