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嫌われようと努力したのに、今日も攻略対象に追いかけられています。  作者: 限界まで足掻いた人生


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79話 施しの影

クロード王子が黒鉄元帥と交渉を続けている間、私とレオンハルト殿下は、厳重な監視下で待機を命じられていた。しかし、私たちがこの交渉のために大皇国へ向かう船に、本物のリリアーナが密かに乗り込んでいたことを、クロード王子たちは知らなかった。彼女は、時の境界を守る責務があったが、カミの新たな干渉に備え、自らの意思で現実世界へ戻っていたのだ。


本物のリリアーナは、クロード王子たちの交渉が決裂した場合に備え、単独で情報収集と脱出経路の確保を行っていた。彼女は王都・(アカツキ)の表通りを避け、貧しい住民が暮らす町外れの地域に潜入した。


その地域は、近代化の喧騒から取り残され、古い長屋が密集していた。そこで彼女が見たのは、意外な光景だった。古びた長屋の前で、一人の老婆が子どもたちにわずかな食料を分け与えている。この極度の管理社会の中で、かろうじて残る人間の温情に、本物のリリアーナは心を動かされた。


しかし、その穏やかな光景は、すぐに打ち破られた。


「おい、そこでおかしなことをしているのは誰だ」


甲高い声と共に、数名の陸軍省の憲兵がやってきた。彼らは真新しい軍服に身を包み、鋭利な銃剣を携えている。


「軍の配給以外の食料の横流しは反体制行為だ。その施しはすべて押収する。老婆、貴様は内務省へ連行する」


憲兵たちは、施しの食料を蹴散らし、老婆を乱暴に引っ張った。子どもたちは泣き叫び、貧しい住民たちは恐怖で声を上げられない。


本物のリリアーナの冷静な表情が、初めて崩れた。彼女は、かつてカミの道具として生きた中で、人間の尊厳が踏みにじられることに強い怒りを覚えた。


「お待ちください」


本物のリリアーナは、一歩前に進み出た。彼女の優雅な立ち振る舞いは、この場にはあまりに場違いだった。


「この方々は、ただ飢えを凌いでいるだけです。軍の規律は理解しますが、人道というものはないのですか?」


憲兵たちは、本物のリリアーナの存在を侮蔑的に見下ろした。


「何だ、貴様。大陸の軟弱な貴族か。この大皇国では、規律が人道だ。貴様も反体制と見なす」


憲兵隊長はそう言い放つと、本物のリリアーナに飛びかかってきた。本物のリリアーナは、過去の周回でカミの監視から逃れるために身につけた、護身の術で憲兵たちを次々と打ち倒していく。


しかし、彼らが異常に強いことに気づいた。その動きは、単なる訓練された兵士のそれを超え、獣のような俊敏さと怪力を兼ね備えていた。


「なぜ、これほどの…!」


本物のリリアーナは、一人の憲兵の攻撃を受け止めたとき、その腕の筋肉が不自然に隆起し、血管が黒ずんでいるのを見た。


彼女は、最後の憲兵隊長を組み伏せると、その首筋に持っていた小さな装飾用のナイフを突きつけた。


「答えなさい。貴様らのその異常な力は、何によるものだ?」


憲兵隊長は、苦悶の表情を浮かべながら、高笑いした。


「ハハ…知るか。これは『皇帝陛下の御慈悲』だ。我々は、人体強化という、大皇国の未来を担う合理的な兵器だ!」


「人体強化…」


本物のリリアーナは、この非人道的な科学技術の裏に、知神アザトースの冷徹な知識が関わっている可能性が高いことを直感した。アザトースは、自らの望む究極の秩序を築くために、この大皇国を道具にしているのかもしれない。


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