7話 本当の悪役令嬢、断罪のルール
「私が、あなたの愛する者を、この手で、地獄に突き落としてあげるわ」
本物のリリアーナの言葉に、私は全身の血の気が引くのを感じた。彼女は、私の手を握りしめ、冷たい微笑みを浮かべた。
「偽物よ。私が最初に地獄に落とすのは……」
彼女は、そう言うと、真っ直ぐにレオンハルト殿下を見据えた。
「レオンハルト。あなたが愛するこの偽物のために、あなたを破滅させてあげる」
その言葉に、レオンハルト殿下は顔色を変えた。
「何を言うんだ、リリアーナ!君は、何のためにそんなことを……!」
レオンハルト殿下は、本物のリリアーナに詰め寄った。しかし、本物のリリアーナは、彼の問いには答えず、私を連れてその場を去ろうとした。
その時、レオンハルト殿下の背後から、イザベラが飛び出してきた。
「リリアーナ様!私を苛めてください!そうすれば、殿下は私を助けてくれます!」
イザベラは、もはや私に怯えることもなく、私を本物のリリアーナから引き離そうとした。
「イザベラ伯爵令嬢……」
私が呆然としていると、本物のリリアーナは、冷たい目でイザベラを見つめた。
「あなた……この偽物の、共犯者ね」
彼女は、そう言うと、イザベラに向かって手をかざした。
「リリアーナ、やめろ!」
レオンハルト殿下が叫んだ。しかし、すでに遅い。本物のリリアーナの指先から、黒い稲妻が放たれた。
「きゃあ!」
イザベラは、悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちた。彼女の頬には、赤く腫れ上がった痣ができていた。
「レオンハルト。これが、偽物が愛した女性の、末路よ」
本物のリリアーナは、そう言い放ち、私を連れてその場を後にした。
私は、本物のリリアーナの屋敷に連れてこられた。彼女は、私をまるで召使いのように扱う。
「偽物よ。あなたには、これから私の代わりに、この国の王太子妃としての仕事をしてもらうわ」
「え……?」
「ただし、私が望む『悪役』としてね。私があなたに命じるのは、たった一つ。私を愛した者たちに、絶望を与えることよ」
本物のリリアーナは、冷酷な笑みを浮かべた。
「レオンハルト、アルフレッド、ジル、ロベルト……そして、イザベラ。彼らがあなたを愛すれば愛するほど、あなたを、そして彼らを、破滅の道へと導く。それが、あなたに与えられた役割よ」
私は、その言葉に、身震いした。
(私を愛した者たちを、破滅させる……?私が、悪役を演じてきた目的と、同じじゃないか……)
しかし、これまでの私の「悪役」は、彼らを不幸にするどころか、逆に彼らの好感度を上げてしまうばかりだった。
「あなたが、私にそんなことを、できるとでも?」
私は、震える声で尋ねた。
「ええ。できるわ。なぜなら、あなたが私と同じ顔をしているから。あなたたちにとって、私がしたことは、全て、あなたがしたことになるからよ」
本物のリリアーナの言葉に、私は衝撃を受けた。
彼女は、私がこれまで積み上げてきた「愛され」ルートを利用し、私と、私を愛する者たちを、一気に地獄に突き落とそうとしているのだ。
私は、もはや逃げ場がないことを悟った。
私の「嫌われる努力」は、ついに、本当の「断罪」を引き寄せてしまった。
そして、その断罪イベントの主役は、私自身なのだ。




