66話 新しい運命の始まり
光の道を進んだ私たちは、再び、フレイア王国の古い屋敷の応接室に戻っていた。
部屋の空気は、以前のような重苦しい憎しみや陰謀の気配はなく、静かで張り詰めている。時間の境界線での出来事があったにも関わらず、現実世界では一瞬たりとも時間は流れていなかったようだ。
レオンハルト殿下は、倒れているライオネル殿下の亡骸を抱きかかえ、深く静かに涙を流していた。彼は、友の命を救うためにカミに協力し、そして、友の魂が完全に消滅する瞬間まで立ち会った。その悲しみは、計り知れない。
クロード王子は、悲しみに耐えながらも、王子の顔に戻り、応接室の窓から外の景色を見た。外の世界は、まだ戦争が起こる前の、平和な静寂に包まれている。
「武神の干渉は、完全に消えた。戦争という悲劇は、起こらない」
クロード王子は、そう静かに宣言した。彼の声には、過去の知識と、未来への決意が混ざり合っている。
「ライオネルの犠牲を無駄にはしない。この世界を、カミの戯れから完全に独立させ、我々人間の手で、新しい運命を築く」
私は、彼の隣に寄り添った。もはや、彼は孤独な復讐者ではない。
「ええ、クロード王子。私たち二人の運命で、この世界を導きましょう」
その時、レオンハルト殿下が、ライオネル殿下を優しく床に横たえ、クロード王子に向き合った。
「クロード殿下。私は、知神アザトースに利用され、リリアーナ様を犠牲にしようとしました。私の罪は重い。しかし、ライオネルの最後の願いは、あなたが王となり、この世界を救うことでした」
彼は、深く頭を下げた。
「私の命と、オーロリア王国の王位継承権は、全てあなたに捧げます。どうか、私に、ライオネルの仇を討つ、武神と千鶴を完全にこの世界から排除するための、あなたの道具となることをお許しください」
クロード王子は、レオンハルト殿下を静かに見つめた。彼は、レオンハルト殿下の罪を許すことができるのだろうか。
「レオンハルト。お前の選択は、合理性と友情の狭間で揺れ動いた、人間の行いだ。カミの道具となったのは、お前だけではない」
クロード王子は、そう言って、レオンハルト殿下の肩に手を置いた。
「お前の忠誠を受け取ろう。しかし、俺はもう、憎しみで動かない。武神と千鶴を完全に排除する。それは、この世界の秩序を保つために、王として行うべき、最後の任務だ」
彼は、ライオネル殿下の亡骸を静かに見つめた。ライオネルの犠牲は、彼らに、憎しみを越えた使命を与えたのだ。
彼らの使命はまだ終わっていない。武神と千鶴は、この世界に直接干渉はできなくなったが、まだカミの領域に存在している。彼らは、いつでも新たな駒を送り込み、世界を再び混沌に陥れる可能性がある。
「リリアーナ。レオンハルト。行くぞ。この世界の運命を、完全に、我々の手で掴み取る」




