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嫌われようと努力したのに、今日も攻略対象に追いかけられています。  作者: 限界まで足掻いた人生


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63話 時の特異点

光の渦から弾き出された瞬間、私たちは、時の流れが複雑に絡み合う、最も危険な空間に立っていた。


ここは、過去と現在と未来が一点で衝突し、融合している時間軸の特異点。景色は一瞬たりとも定まらず、幼いクロード王子の姿、憎しみに満ちた彼の姿、そして孤独な王となった未来の彼の姿が、絶え間なくフラッシュバックする。


「リリアーナ、ここだ」


クロード王子は、私を抱き寄せた腕に力を込め、冷徹な知性と決意に満ちた瞳で周囲を見渡した。彼の体には、武神の血とアザトースの知識、そして過去を救った運命への強い意志が共存している。


「創造主を討つ鍵は、この特異点の中心にある。彼の創造した秩序の根幹だ」


彼は、千鶴の杖を大地に突き刺した。杖の力が、この不安定な空間をわずかに固定する。


「知識によれば、創造主は、この特異点から世界の全ての時間軸を監視している。そして、彼の存在そのものが、この世界の秩序を象徴している」


私は、彼の言葉の意味を理解しようと努めた。


「つまり、彼を討つには、彼が最も恐れる矛盾を、彼の力の根源に叩きつける必要があるということね?」


「その通りだ」


クロード王子は頷いた。


「俺が担うのは、憎しみ。武神の血によってもたらされた、家族を失ったことへの純粋な憎しみだ。これは、秩序を破壊する、最も強力な負の矛盾となる」


彼は、私の目を真っ直ぐに見つめた。彼の瞳には、私が恐れていた、あの冷徹な知性体ではなく、覚悟を決めた一人の人間の情熱が戻っていた。


「そして、リリアーナ。お前が担うのは、運命。カミの思惑を超えて生まれた、俺への愛、そして俺と共に生きることを選んだ運命の意志だ。これは、創造主が最も理解できない、絶対的な正の矛盾となる」


「私に、何をするべきか教えて」


私は、迷いなく答えた。


「俺が、武神の血の力で、この空間に過去の悲劇を再現する。家族を失った瞬間の憎しみの渦を、この特異点の中心に叩きつける」


クロード王子は、そう言って、私に千鶴の杖を手渡した。


「そして、お前は、その憎しみの渦の中心に、お前の愛と運命の意志を、この杖を通して注ぎ込め。憎しみと愛という二つの矛盾が、同時に秩序を破壊する」


それは、あまりにも危険な賭けだった。憎しみの渦の中心に、愛を注ぎ込む。成功すれば、世界の秩序は解放されるが、失敗すれば、私の存在そのものが、憎しみに飲み込まれ消滅してしまうだろう。


「わかったわ、クロード王子」


私は、杖をしっかりと握りしめた。


「俺が憎しみの力を解放する瞬間、お前は一人で戦うことになる。俺の憎しみが、お前を拒絶するだろう。だが、俺は、お前を信じる」


彼は、私に、二度と戻れないかもしれない、最後のキスをした。


そして、彼は、武神の血の力を全身に集中させた。彼の体から、激しい赤いオーラが噴き出し、この特異点の空間全体を、家族の悲鳴と炎の記憶で覆い尽くし始めた。


「行け、リリアーナ!」


クロード王子の叫びと共に、私は憎しみの渦へと、飛び込んだ。

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