59話 運命の書き換え
私が力を分け与えた瞬間、私の体は、限界を超えて光を放ち始めた。同時に、武神・耕太のエネルギー体は、激しい嫌悪感を露わにした。
「チッ!汚ねぇ手を使うんじゃねぇ!運命だの愛だの、俺の領域で、そんなヌルいものを…!」
武神は、完全に興味を失ったかのように、空間の歪みの中に消え去ろうとした。彼の目的は、物語を創ること。ここに留まり、運命の防壁に阻まれ続けることは、彼にとって最大の敗北だった。
「いいだろう。今回は見逃してやる。だが、未来で待ってろ、リリアーナ。お前の干渉が、どんな悲劇的な未来を生み出すか、楽しみにさせてもらうぞ!」
武神は、そう言い残し、空間の歪みと共に、完全に消失した。
彼の干渉の意思は、この過去の瞬間から、完全に逸らされた。
私は、その場に崩れ落ちた。全身の力が抜け、王城の庭園の芝生に倒れ込む。
幼いクロード王子と父王は、空の歪みが元に戻ったことに、ただ首を傾げている。彼らの運命は、この瞬間、守られたのだ。武神の介入という名の悲劇は、この世界から消え去った。
私の使命は、果たされた。
その時、私の体に、再び光が宿り始めた。時の境界線に戻る、転送の光だ。
幼いクロード王子は、私に駆け寄ろうとしたが、父王に止められた。彼は、私にもらった光が残る掌を、不思議そうに見つめていた。そして、私に、小さく手を振った。
私は、涙を流しながら、彼の無邪気な笑顔に、静かに別れを告げた。
「さよなら、クロード王子…あなたが、愛と運命を信じられる未来を」
光が強まり、私の体は、元の時代へ向けて、時の流れに引き上げられていった。
私が過去に植え付けた運命の種は、未来のクロード王子を、憎しみから救うことができるだろうか。その答えを知るのは、再び戻る現在だけだ。




