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嫌われようと努力したのに、今日も攻略対象に追いかけられています。  作者: 限界まで足掻いた人生


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53話 憎しみの解放

クロード王子は、目の前に立つライオネルの姿――その中身がカミの眷属だと理解しながらも――剣を構えたまま、沈黙していた。彼の心の中で、憎しみと、友への情、そして運命への疑念が激しく渦巻いている。


「お前は、ライオネルの体を使って、俺を騙そうとしているのか…?」


クロード王子の問いに、時の導き手は、静かに答えた。


「私は、あなたを騙してはいない、クロード。あなたが憎しみに囚われれば、武神の物語が完成し、この世界は破壊される。それを止めるには、あなたが憎しみを捨てるしかない。ライオネルの姿は、そのための鏡よ」


その時、知神アザトースの声が、冷たい響きで空間に木霊した。


「時の導き手の言葉は、合理的だ、クロード。君が憎しみを抱き続ける限り、君の魂は武神の血の支配下にあり、君は彼の最高の玩具だ。憎しみを捨て、私から知識を得て、武神と千鶴の企みを合理的に打ち砕くのだ」


アザトースは、巨大な砂時計を指差した。


「君の家族が殺された過去も、君とリリアーナの運命も、全てこの砂時計の中にある。真実を知れ。真実のみが、君を憎しみから解放する」


クロード王子は、剣をゆっくりと下ろした。その顔は、決断の苦痛に歪んでいた。


彼は、私を見た。私の瞳には、彼を信じ、共に運命を切り開くという揺るぎない決意が宿っている。


そして、彼は、ライオネルの姿をした時の導き手を見た。友の顔は、悲しげに、彼の決断を待っている。


最後に、彼は、空虚な知神アザトースの影を見つめた。憎むべきカミの言葉。しかし、その言葉が、唯一、武神を倒すための道を示している。


「憎しみを…捨てるだと?」


クロード王子は、自嘲するように呟いた。


「俺の人生は、憎しみで始まった。それを捨てたら、俺には何が残る?」


「運命が残るわ、クロード」


私は、彼の言葉に、すぐに答えた。


「あなたの家族を殺したカミを倒すという運命。そして、私と共にあるという運命よ」


クロード王子は、目を閉じた。彼の体から、武神の血が、まるで毒のように流れ出ていくのが見えた。彼は、自らの手で、長年彼を縛り付けていた呪いの鎖を、断ち切ろうとしている。


そして、彼は目を開いた。その瞳には、憎しみの炎は消え、代わりに、鋼のような強さと、決意の光が宿っていた。


「わかった。アザトースの提示する知識を受け入れる」


クロード王子の言葉に、時の導き手が静かに頷いた。


「それが、あなたが憎しみに打ち勝った証よ」


「合理的な選択だ、クロード」


アザトースは、満足そうに言った。


次の瞬間、アザトースの影が消え、巨大な砂時計から、無数の光の文字が噴き出した。それは、この世界の過去、現在、そして起こり得る未来の全ての情報だった。


光の文字は、クロード王子めがけて流れ込み、彼の全身を包み込んだ。彼は苦痛に顔を歪ませたが、歯を食いしばり、その全てを受け入れた。


私は、彼が憎しみを乗り越え、この世界の運命を自らの手で掴もうとしているのを感じた。

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