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嫌われようと努力したのに、今日も攻略対象に追いかけられています。  作者: 限界まで足掻いた人生


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52話 友のペルソナ

光が収束したとき、私はクロード王子の腕の中で、ゆっくりと目を開けた。


私たちは、戦場から逃れていた。周囲は、戦いの喧騒とは無縁の、静謐な空間だった。足元は白い大理石、頭上は星々が流れ落ちる夜空。時の流れそのものが存在する、カミの領域だった。


クロード王子は、警戒を解かずに周囲を見渡した。彼の体から武神の血のオーラは消え、表情には疲労の色が濃い。


「ここは…」


「ここは、時の流れそのもの…」


静かに、後ろから声が響いた。


振り返ると、そこには、意識不明で王宮に運び込まれていたはずの人物が立っていた。


ライオネル殿下だ。


彼は、胸の傷が治り、まるで健康な時のように立っていた。しかし、その瞳は、いつもの快活な光ではなく、深く、そして遠い時を見通すような、澄んだ光を宿していた。


「ライオネル…!」


クロード王子は、驚きと安堵と、そして強い警戒が入り混じった表情を浮かべた。


「なぜ、お前がここに…!傷は…」


「彼の肉体は、私が一時的に使わせてもらっている」


ライオネルの口から発せられた声は、ライオネルの声ではない。女性的で、静かで、しかし、世界を支配するような威厳を帯びた声だった。


「私は、知神アザトースの眷属。この世界の運命を監視する、時の導き手だ」


「知神の…眷属…!」


クロード王子は、剣を構え直した。彼は、友の体を乗っ取ったカミの道具を、許すことができなかった。


「ライオネル殿下を、どうするつもりですか!」


私が叫ぶと、時の導き手(ライオネルの体)は、悲しげに微笑んだ。


「彼の魂は、レオンハルトの犠牲によって辛うじて繋がれている。武神の干渉から逃れるには、彼の体に、強力な結界を張る必要があった」


その時、空間の奥から、冷たい風と共に、知神アザトースが影から姿を現した。


「時の導き手よ。君の行動は、運命の均衡を乱す」


アザトースの声は、冷たい理性に満ちていた。


「アザトース様…」


時の導き手は、アザトースに向き合った。


「武神と千鶴の企みは、この世界を混沌に陥れる。それを止められるのは、クロードとリリアーナの運命しかない。私は、時の流れの歪みを正す」


アザトースは、鼻で笑った。


「君の言う正しき運命とは、武神と千鶴の物語を邪魔し、私が主導権を握るための布石にすぎない。君は、ライオネルの体を使って、クロードの感情を操作しようとしている」


時の導き手は、その言葉に反論しなかった。彼女の瞳は、深い悲しみを湛えていた。


「クロード。私がライオネルの体を借りたのは、あなたが最も信頼する者の言葉でしか、憎しみを乗り越えられないと知っているからよ」


彼女は、静かに巨大な砂時計を指差した。


「武神は、あなたが憎しみに飲まれ、この世界を破壊することを望んでいる。それを止めるには、あなたが憎しみを捨て、アザトースの提示する知識を受け入れるしかない」


クロード王子の心は、激しく揺れ動いた。目の前にいるのは、最も信頼する友の姿。しかし、その中身は、最も憎むべきカミの道具だ。


「お前は…ライオネルの体を使い、俺を騙そうとしているのか…?」


「私は、カミの身勝手な遊びに、終止符を打ちたいだけよ」


時の導き手は、そう言って、静かにクロード王子に問いかけた。


「憎しみを捨てる覚悟があるか、クロード。あなたが憎しみを捨てれば、この世界の運命は、永遠にカミの手から離れる」

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