48話 憎しみの刃
クロード王子の剣は、憎しみを乗せて振り下ろされた。標的は私と、彼の罪を告白したレオンハルト殿下の二人。
「二度と、カミの道具など作るものか!」
彼の叫びは、復讐に燃える武神の血の叫びだった。
レオンハルト殿下は、身の安全を顧みず、私の前に立ち塞がった。
「クロード殿下!冷静に!私はカミの駒かもしれませんが、あなたの友人です!そして、リリアーナ様は…」
「黙れ!」
クロード王子の剣は、レオンハルト殿下の肩を掠め、鮮血が飛び散った。レオンハルト殿下は呻き、よろめいた。
その隙に、本物のリリアーナが素早く動いた。彼女はクロード王子の腕を取り、魔力を込めた掌で、彼の肘の神経を叩いた。
「憎しみに飲まれないで、クロード!」
彼女の行動は、かつてカミに操られていた経験から来る、冷静な対処だった。
一瞬の痛みに、クロード王子の剣が止まる。彼は、本物のリリアーナを睨みつけた。
「裏切り者め…お前も、俺の憎しみを試すカミの仕業か!」
彼は本物のリリアーナを突き飛ばし、再び私の方へ剣を向けた。彼は私をカミが送り込んだ「愛の幻影」だと信じ込んでいる。
私は、彼の剣から逃げながら、必死に訴えかけた。
「クロード王子!私はあなたの知っているリリアーナよ!ライオネル殿下を助けたのはレオンハルト殿下。そして私を消したのも、カミの仕業なの!」
「知るか!すべて、カミの退屈しのぎだ!俺は、もう誰の言葉も信じない!」
彼の心は完全に閉ざされていた。憎しみという名の呪いが、彼を鎖のように縛っている。
その時、レオンハルト殿下が、肩を押さえながら立ち上がった。
「リリアーナ様…逃げてください!」
彼はそう叫ぶと、床に落ちていた剣を拾い上げ、クロード王子の背後から間合いを詰めた。彼はクロード王子を傷つけるつもりはない。ただ、時間を稼ごうとしているのだ。
「レオンハルト殿下まで、俺を裏切るのか!」
クロード王子の怒りは頂点に達した。武神の血が、彼の体を赤く発光させる。彼の剣の動きは、人間業とは思えないほど速く、重かった。
「クロード、私を信じて!」
本物のリリアーナが、クロード王子の背中に向かって、魔力の光を放った。それは彼を傷つけるのではなく、一時的に彼の体のカミの血の暴走を抑えるための鎮静の魔法だった。
クロード王子の動きが、わずかに鈍る。
その一瞬の隙に、私は彼の前に飛び出した。
「私はあなたの運命を諦めない!あなたが憎しみに囚われるのは、カミの望む筋書きよ!」
私は剣を持つ彼の腕を両手で掴み、真っ直ぐに彼の瞳を見つめた。
「思い出して!あなたが私に言ってくれた言葉を!あなたが運命を信じようとした、あの瞬間を!」
私の必死な叫びは、凍りついたクロード王子の心に、届いただろうか。彼の瞳の奥に、わずかな動揺の色がよぎったように見えた。
しかし、憎しみは根深い。彼は私を力強く突き放した。
「すべて、幻だ!」
彼は再び剣を振り上げ、振り下ろす。今度こそ、逃れる術はない。
その瞬間、部屋全体が強い光に包まれ、雷鳴のような轟音が響き渡った。
私たちは、皆、目を閉じた。
カミの領域から、新たな干渉があったのだろうか。




