43話 元の世界
私は、光に包まれた。
クロード王子が、私の名を叫ぶ声が、遠くで聞こえる。彼の腕の中で、私の体は、光の粒子となって、消えていく。
「クロード王子…」
最後の言葉は、声にならなかった。
私の意識は、光の渦に飲み込まれ、そして、深い闇に包まれた。
どれくらいの時間が経っただろうか。
私は、ゆっくりと、瞼を開けた。
目に映ったのは、見慣れた、そして、懐かしい、私の部屋の天井だった。
私は、ゆっくりと体を起こした。
柔らかなベッド。窓から差し込む、朝の光。
すべてが、見慣れた、私の部屋だった。
私は、自分が、夢を見ていたのではないかと、思った。
クロード王子。ライオネル殿下。そして、本物のリリアーナ。彼らは、皆、私が作り出した、ただの夢の中の人物だったのではないか。
その時、私の頭の中に、声が響いた。
「おかえりなさい、リリアーナ」
その声は、優しく、そして、どこか悲しげだった。
私は、声の主を探した。
窓の外を見ると、そこには、いつの間にか、三人の人影が立っていた。
「ようやったな、リリアーナ」
一人は、鶴神千鶴だった。
「君は、この世界の運命を、あるべき姿に戻した」
そして、もう一人は、武神耕太。
「そして、君は、この世界の運命から、解放された」
そして、最後に、知神アザトース。
三柱のカミは、私を、元の世界に戻したのだ。
「どうして…どうして、私を、こんな場所に…」
私の言葉に、アザトースが答える。
「君は、この世界の運命を、正常に戻すために、必要だった。そして、君は、その役目を、果たした」
私は、混乱した頭で、尋ねた。
「クロード王子は…?ライオネル殿下は…?彼らは、どうなったのですか?」
私の問いに、千鶴が、冷たい声で、答えた。
「あんたの運命のせいで、世界の運命は、歪んだままや。でも、あんたが元の世界に戻ったことで、クロードの運命も、正常に戻る」
「正常…?」
「クロードは、これから、運命を信じない、孤独な王として、生きていくだろう」
武神耕太が、そう言った。
その言葉に、私の心臓が、凍りついた。
クロード王子は、私を失ったことで、運命を信じないまま、生きていく。
私は、彼に、幸せを与えてやることができなかった。
「私が…いなければ…」
私が、そう呟くと、アザトースが、静かに言った。
「君は、この世界の運命を、あるべき姿に戻した。それが、君の役目だった」
私は、その場で、崩れ落ちた。
私は、この世界の運命を、あるべき姿に戻した。
しかし、その代償として、私は、大切な人を、失ったのだ。
そして、私は、この世界で、一人、孤独に生きていく。
私の愛は、世界を救うどころか、クロード王子を、孤独に突き落とした。
私は、報われぬ愛の代償を、生涯、背負って生きていくだろう。




