42話 報われぬ犠牲
私が、ライオネルの病室を出た後、クロード殿下とリリアーナは、私を待っていたかのように、廊下の向こうから歩いてきた。
「レオンハルト…」
クロード殿下は、私の顔を見て、不安そうな表情を浮かべた。
「ライオネルは…」
私は、彼の言葉を遮り、静かに言った。
「ライオネルは、助かった。もう大丈夫だ」
私の言葉に、クロード殿下は、安堵のため息を漏らした。そして、その目に、涙を浮かべた。
「ありがとう…レオンハルト…」
彼は、心からの感謝を込めて、そう言った。
しかし、その時だった。
リリアーナの体が、突然、発光し始めた。
「リリアーナ…?」
クロード殿下が、驚きと戸惑いの表情で、彼女に声をかける。
リリアーナの体から、光の粒子が、まるで蛍のように、舞い上がっていく。
「クロード王子…」
彼女は、悲しい目で、クロード殿下を見つめた。
「どうして…?」
クロード殿下は、彼女の異変に、動揺を隠せないでいた。
「どうして…私…、消えちゃうのかな…」
リリアーナは、そう言って、静かに微笑んだ。その笑顔は、あまりにも悲しく、そして、どこか、諦めにも似ていた。
「やめろ…やめるんだ!」
クロード殿下は、リリアーナの体を、必死に抱きしめた。
しかし、彼の腕の中で、リリアーナの体は、光の粒子となって、消えていく。
「クロード王子…私は…あなたのことが…」
彼女は、そう言って、最後の言葉を、紡ごうとした。
しかし、その言葉は、最後まで、聞こえなかった。
リリアーナの体は、完全に光の粒子となり、空へと、舞い上がっていく。
クロード殿下は、その場で、崩れ落ちた。彼の腕の中には、もう、何もなかった。
私は、その光景を、ただ、呆然と見つめることしかできなかった。
アザトースの言葉が、私の頭の中で、こだまのように響く。
「リリアーナという異物は、この世界の運命から、排除される」
私は、ライオネルの命を救った。しかし、その代償として、リリアーナを失った。
クロード殿下の、絶望に満ちた叫び声が、廊下に響き渡る。
「リリアーナ…!リリアーナ…!」
私は、彼に、何も言ってやることができなかった。
私の選択は、彼を、さらなる悲しみの淵に突き落とした。
私は、この世界の運命を、あるべき姿に戻したかった。
しかし、その結果は、あまりにも悲しいものだった。
私の、報われぬ犠牲は、彼に、深い傷を残した。




