41話 最後の鍵
私は、ヴァーレント王国の王宮に、単身乗り込んだ。
王宮の衛兵たちは、私を警戒していたが、オーロリア王国の第二王子である私の訪問を、無下にすることはできなかった。
私は、ライオネルの病室へと案内された。
病室の扉を開けると、そこには、意識を失い、ベッドに横たわるライオネルの姿があった。彼の顔は、まるで死人のように真っ青で、胸に巻かれた包帯からは、血が滲んでいた。
私は、ライオネルのベッドサイドに歩み寄り、彼の顔を、静かに見つめた。
その時、再び、アザトースの声が、私の頭の中に響いた。
「ライオネルの命は、風前の灯火だ。彼の命を救うには、君の力が必要だ」
私は、アザトースに、どうすればいいのか尋ねた。
「彼の体に、君の魂を分け与えるのだ。そうすれば、彼の命は、再び燃え盛るだろう」
私は、その言葉に、息をのんだ。
「魂を…分け与える…?」
「そうだ。君の魂は、この世界の運命を、あるべき姿に戻す力を持っている。その力を、ライオネルに分け与えれば、彼の命は、救われる」
アザトースの言葉は、まるで、私を誘う、甘い囁きだった。
しかし、私は、ためらわなかった。
私は、ライオネルの命を救うために、ここにいるのだから。
私は、ライオネルの体に、そっと、手をかざした。
そして、目を閉じ、アザトースの導きに従い、私の魂の力を、ライオネルに送り込む。
すると、私の体から、光が溢れ出し、ライオネルの体に、流れ込んでいくのがわかった。
ライオネルの顔に、血の気が戻り、彼の呼吸が、ゆっくりと、しかし、力強くなっていく。
私は、安堵のため息を漏らした。
ライオネルは、助かった。
私は、彼の命を救うことができたのだ。
その時、アザトースの声が、再び、私の頭の中に響いた。
「これで、ライオネルは救われた。そして、リリアーナは、もはや、この世界の運命から、排除されるだろう」
私は、その言葉に、胸が締め付けられるような痛みを感じた。
私は、ライオネルを救った。しかし、その代償として、リリアーナが、この世界の運命から、消されてしまう。
「なぜ…なぜ、そんなことを…!」
私は、怒りを込めて、アザトースに叫んだ。
「私は、この世界の運命を、あるべき姿に戻すと言っただろう?リリアーナという異物は、この世界の運命に、歪みをもたらす。彼女が消えれば、クロードの運命も、正常に戻るだろう」
アザトースの言葉は、冷たく、そして、合理的だった。
私は、アザトースの駒になったのだ。
ライオネルの命を救い、リリアーナを犠牲にするという、悲しい運命に。
私は、その場で、ただ、立ち尽くすことしかできなかった。




