39話 運命の選択
私の頭の中に響くアザトースの声は、まるで私自身の心の声のように静かで、しかし、圧倒的な説得力を持っていた。
「どうする、レオンハルト。君は、この世界の運命を、どう導く?」
私は、目を閉じた。
クロード殿下とリリアーナの苦しむ顔が、脳裏に浮かぶ。彼らは、カミによって、愛を、そして幸せを奪われ、憎しみと絶望の中で生きている。そして、ライオネルの、意識を失った姿。
私は、彼らを見捨てることはできなかった。
「俺は…」
私は、静かに、アザトースに答えた。
「俺は、お前たちカミの駒になるつもりはない。だが、この世界の運命を、あるべき姿に戻すために、お前の力を借りる」
「ふむ…面白い。それが、君の答えか」
アザトースの声は、楽しそうに響いた。
「では、君に、この世界の運命を読み解く力を与えよう。そして、君に、この世界の真実を、すべて見せてやろう」
その言葉と共に、私の頭の中に、膨大な情報が流れ込んできた。
それは、まるで、この世界の歴史を、最初から最後まで、一気に見ていくかのようだった。
カミの退屈な遊び。何百、何千と繰り返されてきた、この世界の運命。
そして、クロード殿下とリリアーナの、悲しい結末。
私は、そのすべてを、瞬時に理解した。
武神耕太は、シナリオに沿わないクロード殿下を、面白いと見定め、彼にカミの血を与えた。鶴神千鶴は、その運命をさらに面白くするために、クロード殿下とリリアーナの愛を利用し、混沌を引き起こした。そして、彼らがこの世界を救う鍵だと知っている、本物のリリアーナを、この世界に送り込んだ。
すべては、彼らの退屈なゲームだったのだ。
私は、怒りに震えた。
「なんて…なんて身勝手な…!」
私の心の中の叫び声に、アザトースは、静かに答えた。
「我々は、退屈を嫌う。それだけだ。そして、君は、その退屈な運命を打ち破る、唯一の存在だ」
私は、アザトースの言葉を、信じることにした。
私は、この世界の運命を、カミの思惑通りに動かすのではない。
俺が、俺自身の意思で、この世界を救うのだ。
「俺は、どうすればいい…?」
私の問いに、アザトースは、答えを返した。
「ライオネルを、救うのだ」
私は、その言葉に、はっとした。
「ライオネルが、この世界の運命を変える、最後の鍵か…?」
「そうだ。彼は、クロードの、唯一の光。彼が、命を落とせば、クロードは、完全に、憎しみに支配される。そうなれば、この世界の運命は、二度と、元に戻せない」
私は、すぐに、立ち上がった。
「セバスチャン!すぐに、馬車を!」
私の執事は、私の剣幕に、困惑した表情を浮かべた。
「レオンハルト殿下…どちらへ?」
「ヴァーレント王国だ」
私は、そう言って、部屋を飛び出した。
私は、ライオネルを救う。
それが、この世界の運命を変える、唯一の方法なのだ。




