38話 運命の導き手
私は、オーロリア王国の王宮の一室で、報告書に目を通していた。
この数日、オーロリア王国とヴァーレント王国の国境付近で、奇妙な出来事が起きている。大規模な武力衝突が起こり、そして、何の理由もなく、まるで時間が巻き戻ったかのように、戦争が止まったのだ。
私は、この不可解な事態に、ただの偶然だとは思えなかった。
その時、私の執事が、静かに部屋に入ってきた。
「レオンハルト殿下、緊急のご報告がございます」
「どうした?」
「ヴァーレント王国の第一王子、ライオネル殿下が…」
私は、その言葉に、息をのんだ。
「ライオネル殿下が…意識不明の重体で、王宮に運び込まれたとのことです」
私は、その言葉に、全身の血が凍りつくのを感じた。ライオネルは、クロード殿下の最も親しい友人だ。そして、私にとっても、良き友人だった。
「どうして…なぜ、こんなことに…」
私は、理由が分からなかった。
その時、私の頭の中に、直接、声が響いた。
「おめでとう、レオンハルト。ようやく、君の出番が来たようだな」
その声は、どこか楽しげで、しかし、冷たい響きを持っていた。
私は、驚きを隠せずに、辺りを見回した。しかし、部屋には、私と執事しかいなかった。
「私は、この世界の運命を支配する、三柱のカミの一柱。我が名は、知神、アザトース」
知神、アザトース。
私は、その言葉に、体が硬直するのを感じた。
「お前は…カミ…?」
私は、震える声で尋ねた。
「そうだ。そして、君は、この世界を救う、最後の希望だ」
アザトースは、そう言って、私に語りかけた。
「君の友、ライオネルは、クロードとリリアーナの、歪んだ愛によって、命を落としかけている」
その言葉に、私は、胸が締め付けられるような痛みを感じた。クロードとリリアーナの愛が、なぜ、ライオネルの命を奪う?
「君は、この世界の運命を、正常な状態に戻すことができる。君には、その知恵と、勇気がある」
アザトースは、そう言って、私に、一つのヴィジョンを見せた。
それは、クロード殿下とリリアーナが、互いに、苦しそうに、愛を語り合う姿だった。そして、その二人の周りには、黒い靄が渦を巻いている。
「千鶴は、この世界の運命を混沌に陥れることで、退屈を打ち破ろうとした。武神は、その混沌を、新たな物語の始まりとしようとした。だが、彼らは、道筋を間違えた」
アザトースの声は、静かに、しかし、力強く、私の心に響いた。
「この世界の運命を、あるべき姿に戻すには、クロードとリリアーナの愛を、正しい形に戻す必要がある」
私は、その言葉に、迷いが生じた。
クロード殿下とリリアーナを、このまま、カミの思惑通りに動かすのか。
だが、ライオネルの命を救うためには、他に方法がない。
「どうする、レオンハルト。君は、この世界の運命を、どう導く?」
アザトースの声が、私の心に、深く問いかけた。




