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嫌われようと努力したのに、今日も攻略対象に追いかけられています。  作者: 限界まで足掻いた人生


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35話 届かぬ勝利

大使を操る千鶴の力が弱まった瞬間、クロード王子は素早く行動した。彼は、大使の肩を揺すり、必死に語りかける。


「大使殿!千鶴は、ただの退屈しのぎに、我々を弄んでいた!この戦争は、無意味なのだ!」


大使は、混乱した表情で、クロード王子の顔を見つめていた。本物のリリアーナは、そんな彼の背後に静かに立ち、大使の意識を安定させるための魔力を送り続ける。その横で、私は、千鶴を警戒しながら、クロード王子たちの様子を見守っていた。


「そんな…!なぜ…」


大使は、頭を抱え、苦悶の表情を浮かべる。


「大使殿、あなたに、戦争を止める権限があるはずです!今なら、まだ間に合う!」


クロード王子の言葉に、大使は、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、かつての、鋭い光が戻っていた。


「クロード殿下…ありがとうございます…」


彼は、そう言って、深く頭を下げた。


「ですが───」


その時、私たちの目の前に、千鶴が姿を現した。


「ほー、やるやん。でも、もう遅いんやで」


千鶴は、余裕の笑みを浮かべ、杖を構えた。


「この場の交渉を邪魔することはできへんかったけど、戦争は、もう始まっとる」


その言葉に、私たちは、息をのんだ。


「あんたらの運命(シナリオ)が、この世界の運命(シナリオ)を、最高に面白くしてくれた。その代償は、あんたらが、一番大切にしているもんに、払ってもらうで」


千鶴は、そう言って、杖を振りかざした。次の瞬間、彼女の背後から、黒い影が、無数に現れた。それは、千鶴に操られた、ヴァーレント王国の兵士たちだった。


「リリアーナ!下がれ!」


クロード王子は、私をかばうように前に出た。本物のリリアーナも、魔力を高め、千鶴と対峙する。


「お前らごときに、俺たちの愛は、壊させない!」


クロード王子の言葉に、千鶴は、高らかに笑った。


「そんないつまでも続く運命(シナリオ)なんて、つまらんやろ? わての、運命(シナリオ)は、止めることはできへんのや!」


千鶴の言葉に、クロード王子の顔が、一瞬で凍りついた。彼は、千鶴が、武神というカミと繋がっていることを知っていたのだ。


「もうええわ。お前らの描く運命(シナリオ)の結末は、わてのシナリオで終わらせてやる!」


千鶴は、そう言って、杖から、巨大な魔力の塊を放った。


クロード王子と本物のリリアーナは、その魔力に、向かっていく。


二人の魔力が、千鶴の放った魔力とぶつかり、大爆発を起こした。


爆発の光が収まった後、そこに立っていたのは、クロード王子と本物のリリアーナ、そして、力を使い果たして倒れ込んだ千鶴だった。


「やった…やったわ!」


私は、歓喜に震えながら、二人に駆け寄った。


「千鶴を、倒したわ!」


しかし、二人の顔は、喜びではなく、悲しみに満ちていた。


「どうしたの…?」


私の問いに、クロード王子は、震える声で、答えた。


「俺たちが、千鶴と戦っている間に…すでに、戦争が始まっていた」


その言葉に、私の心臓が、凍りついた。


遠くから、鬨の声が聞こえてくる。それは、勝利の歓声ではなく、多くの命が奪われる、悲しい戦いの音だった。


私たちは、千鶴を倒した。しかし、その勝利は、あまりにも遅すぎた。


ライオネル殿下の死に、大使の無謀な要求。そして、千鶴の策略。全てが、この悲劇的な結末へと繋がっていたのだ。


私たちの愛は、世界を救うどころか、悲劇的な戦争を招いてしまった。


私たちは、ただ、燃え盛る戦場を、無力なまま、見つめることしかできなかった。

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