32話 過去の呪縛
本物のリリアーナの話を聞いた後、俺は自室に戻った。
彼女は、カミに操られていた過去を語った。そして、俺とリリアーナの愛が、この世界の運命を変える鍵だと言った。彼女の言葉は、俺の心に、忘れかけていた希望の光を灯した。だが、同時に、過去の、忌まわしい記憶が蘇ってきた。
それは、俺がまだ、幼かった頃のことだ。
俺は、父上と、母上と、そして、生まれたばかりの妹と、幸せに暮らしていた。
俺は、剣の稽古が好きで、父上に教わりながら、毎日、汗を流していた。
「クロード、お前は、この国を、そして、人々を、守る存在になるんだ」
父上は、いつも、そう言って、俺の頭を撫でてくれた。
母上は、いつも、優しく微笑み、俺の帰りを、温かい食事と共に待っていてくれた。
妹は、俺が剣の稽古から帰ると、小さな手で、俺の剣を掴もうと、必死にハイハイしてくる。俺は、そんな妹が、可愛くて仕方なかった。
そんな、当たり前の、幸せな日々が、永遠に続くと思っていた。
ある日、俺は、ライオネルと、国の外れにある森で、鬼ごっこをしていた。
「クロード、もう降参しろよ!俺の足に、敵うわけないだろ!」
ライオネルは、そう言って、木の上から、俺をからかってきた。
「なんだと!俺は、もうすぐ、お前を捕まえてやる!」
俺は、そう言って、木を登ろうとするが、なかなかうまくいかない。
ライオネルは、そんな俺を、楽しそうに笑っていた。
その時だった。
空が、不自然に歪んだ。
空から、奇妙な、不協和音が鳴り響き、俺とライオネルは、顔を見合わせた。
「なんだ、これ…?」
俺は、不安に思い、ライオネルに尋ねた。
その時、ライオネルの顔から、笑顔が消えた。彼は、真っ青な顔で、俺の背後を指差した。
「クロード…あれ…」
俺が、振り返ると、そこには、信じられない光景が広がっていた。
俺たちの、城が、燃えていた。
真っ赤な炎が、空高く舞い上がり、黒い煙が、空を覆い尽くしていた。
「父上!母上!妹!」
俺は、そう叫び、城に向かって走り出した。ライオネルも、俺の後に続いて走ってきた。
城にたどり着いた俺が、見たのは、無残な光景だった。
城の兵士たちが、まるで人形のように、倒れていた。
兵士たちが積み重なっているところをかき分けて見ると母上と妹が倒れていた。そのすぐ近くに父上もいた。
俺は、震える足で、父上の元に行った。
「クロード…」
父上は、俺に、そう言って、血を吐き、事切れた。
「どうして…どうしてこんなことに…」
その時、空から、声が聞こえてきた。
「チッ、シナリオ通りにいかねーな。ならば、消去するしかねーか」
その声は、冷たく、不快な感情がこもっていた。まるで、ゲームでもしているかのように、楽しそうだった。
俺は、怒りに震え、空に向かって叫んだ。
「何者だ!一体、誰がこんなことをした!」
俺の問いに、空から、嘲笑うような声が響いた。
「俺にか?まぁ、教えてやるよ」
声は、冷たい風となって、俺の耳元を通り過ぎた。
「この世界に、運命という名の鎖を巻きつけし、武の神。退屈を打ち砕き、新たな物語を紡ぐ者」
そして、空から、雷鳴が轟いた。
「俺の名は、武神 耕太!この世界の運命を支配する、三柱のカミの一柱だ!」
その言葉に、俺は、全身の血が凍りつくのを感じた。
刹那、雷光と供にカミの姿が消えた。
俺の家族は、ただ、カミのシナリオに沿わなかったという、それだけの理由で、殺されたのだ。
「面白い…面白いじゃねぇか!」
武神耕太の声が、再び、空から響いた。
「シナリオから外れたお前らは、面白れぇ。超面白れぇ。気に入ったぜ、とくにお前だ、クロード!」
次の瞬間、空から、赤い光の粒子が、俺の体に降り注いだ。
俺は、全身に、激しい痛みが走るのを感じた。まるで、血が沸騰しているかのようだった。
「これは…カミの血だ。お前にも、俺の力を分けてやる。これで、お前も、もっと面白れぇ運命を歩めるだろうよ!」
武神耕太は、そう言って、高らかに笑った。
俺は、その言葉に、絶望的な気分になった。
俺は、家族を殺されただけでなく、憎むべきカミの力を、体に植え付けられた。この力は、俺を、さらに、カミの運命に縛り付けるための、新たな呪縛なのだ。
俺は、怒りと憎しみに震えた。
俺は、カミを、この世界から、消し去ってやると、心に誓った。
そして、その日を境に、俺は、愛を信じることをやめた。愛が、俺の家族を、そして俺自身を、この地獄に突き落としたのだから。
本物のリリアーナは、俺を救おうとしてくれている。だが、俺は、まだ、愛を信じられない。
俺の心は、憎しみと、復讐心に支配されたままだ。
俺は、この呪縛から、本当に、解放されるのだろうか。




