30話 意外な訪問者
千鶴の登場によって交渉は中断され、私たちは、かろうじてその場を脱出した。大使は、千鶴に操られたまま、その場で硬直していた。私とクロード王子は、セバンスチャンと合流し、私の屋敷へと急いだ。
屋敷の応接室には、重苦しい空気が漂っていた。私たちは、戦争を止めるための作戦会議を開いていたが、千鶴という圧倒的な存在を前に、何も解決策を見いだせずにいた。
「どうすればいいの…?」
私は、絶望的な気分で呟いた。千鶴は、この世界の運命を弄ぶ、神のような存在だ。そんな相手に、どうやって立ち向かえばいいのだろうか。
「千鶴の狙いは、俺とリリアーナの愛を利用して、この世界に混沌をもたらすことだ」
クロード王子は、冷静な口調で言った。だが、その瞳の奥には、深い怒りと憎しみが宿っていた。
「俺は、もう、愛を信じない。この戦争を止めるためには、千鶴の狙いとは逆の行動をとるべきだ」
「逆の行動…?」
私がそう尋ねると、クロード王子は、冷たい目で、私を見つめた。
「俺と、リリアーナが、愛を捨てることだ」
その言葉に、私は、胸が締め付けられるような痛みを感じた。彼に、再び、突き放される。
「そんな…」
「それ以外に、方法はない」
クロード王子は、冷たく言い放った。彼の言葉は、私の心を、まるで氷のように凍らせた。
「クロード王子、それは、あまりにも…」
セバンスチャンが、悲痛な表情で、そう言った。
「セバンスチャン、これは、俺とリリアーナの、二人だけの問題だ」
クロード王子の言葉に、セバンスチャンは、黙り込んだ。
私は、愛を捨てるという、あまりにも悲しい選択を迫られていた。
その時、応接室の扉が、ノックされた。
「どなたですか?」
セバンスチャンが、扉に近づき、そう尋ねた。
返事はない。
しかし、もう一度、ノックの音が響く。それは、静かで、しかし、どこか切羽詰まったような、独特なリズムだった。
セバンスチャンは、訝しげに扉を開けた。
そこに立っていたのは、誰も予想していなかった人物だった。
その人物の姿を、私は、ただ呆然と見つめることしかできなかった。




