232話 執念の再演、肉塊の悪夢
内と外からの同時攻撃により、アナザーの巨体は崩壊を始めた。 肉の城が雪崩のように崩れ落ち、その奥にある**「真の核」**への道が開かれたかに見えた。
「今だ! 核を叩け!」
クロードが叫び、全員が最後の力を振り絞って踏み込む。 しかし、その足元で、崩れ落ちたはずの肉塊たちが、ベチャリと不快な音を立てて蠢いた。
『……逃がさない。還さない。私の食事は、まだ終わっていない……!』
アナザーの怨嗟の声が響く。 彼女は、崩壊していく自らの肉体と、体内に取り込んでいた**アザトースの「記憶データ」**を悪用し、最後の防衛機能を働かせたのだ。
泥濘から生まれし強敵たち
「な、なんだ!? 肉片が……人の形に!?」
地面に散らばった無数の肉塊が、見る間に膨れ上がり、形を成していく。 それは、かつてリリアーナたちが死闘を繰り広げた、過去の強敵たちの姿だった。
1. 帝国の鉄槌:黒鉄元帥&白鷺文官長 大皇国の軍服を模した肉の鎧を纏い、冷徹な殺意を放つ二人。 「秩序を乱す者は、排除する」 「非合理な抵抗ですね」
2. 憎悪の化身:愛の否定者ノエマ セバスチャンと死闘を演じた、憎しみに染まった頃の零号の姿。 「人間など、バグだらけの失敗作だ」
3. 過去の亡霊:武神・耕太(初期形態) そして、燃え盛る剣を手にした、暴力の化身。 「ヒャハハ! 壊し足りねぇよなぁ!」
彼らはゾンビのような虚ろな存在ではなかった。 その瞳には明確な殺意が宿り、放たれる魔力は、生前――いや、全盛期と同等か、それ以上のプレッシャーを放っていた。
全能力の絶望
「幻影か? 蹴散らせ!」
ライオネルが剣を振るう。しかし、肉塊の黒鉄元帥は、その剛剣を指一本で受け止めた。
ガギィッ!
「なっ……嘘だろ!? 生前より重いぞ!」
「データ参照。出力調整、最大」 肉塊たちは、アザトースの知識によって**「最も強かった瞬間の能力」を完全に再現されているだけでなく、アナザーの無尽蔵の魔力によって強化**されていた。
ドォォォン!!
ノエマの一撃がセバスチャンを吹き飛ばし、武神の炎がレオンハルトの盾を焦がす。 黒鉄元帥の拳が、クロードを地面に叩きつける。
「ぐ、あぁっ……!」
リリアーナたちは、先ほどの総攻撃で力を使い果たしている。対して、目の前の敵は無尽蔵のスタミナと最強の能力を持つ怪物たち。
『味わいなさい。貴様らが乗り越えてきたはずの「過去」に、もう一度殺される屈辱を』
アナザーの核が、肉の壁の奥で嘲笑う。 崩壊する世界の中で、リリアーナたちは「勝ち目のない同窓会」に強制参加させられていた。
「くそっ……! 道が開かない……!」
圧倒的な質と量の暴力が、リリアーナたちの行く手を完全に塞いだ。




