226話 喰らい尽くされる希望と、解析者の到来
『産めよ、増やせよ、地に満ちよ……そして、私に食われよ』
第三形態【万魔の豊穣神】と化したアナザーは、その醜悪な肉塊の体を膨張させ、世界そのものを飲み込み始めていた。物理攻撃も魔法も、触れた瞬間に「栄養」として吸収されてしまう。
「それでも、やるしかない! 俺たちの生きた証を、奴に叩きつけるんだ!」
クロードが叫ぶ。全員が、自らの人生で得た「最大の想い」を刃に変え、特攻を開始した。
覚醒:魂の連撃
1. クロード:【約束の王剣】 クロードの脳裏に、守り抜いた幼少期の庭園と、家族の笑顔が過ぎる。 「俺は、平和を守るために剣を取った! 復讐のためじゃない!」 武神の赤と王家の金が混ざり合い、巨大な光の聖剣となって振り下ろされた。
2. ライオネル&レオンハルト:【双翼の守護神】 二人の脳裏に、背中合わせで戦った国境の夕焼けが浮かぶ。 「友よ、俺たちは二人で一つだ!」 「ああ! 攻防一体の輝きを見せてやる!」 最強の盾と最強の剣が融合し、螺旋を描く青銀の嵐となって突撃する。
3. セバスチャン&カイ:【自由への演算】 冷たい地下研究所で繋いだ、小さな手の温もり。 「我々は道具ではない!」 「私たちは、意志を持つ生命だ!」 二人の人造知性が極限までオーバークロックし、プラチナ色の極太レーザーを放つ。
4. 千代:【千羽の祈り・紅】 リリアーナに救われ、初めて自分の価値を認められたあの川辺。 「わては、もう自分を卑下せぇへん!」 千鶴の杖から、無数の折り鶴が炎の鳥となって羽ばたき、特攻する。
5. リリアーナ:【運命・リライト】 そしてリリアーナは、全員の想いを束ね、自らの運命操作能力を乗せて突っ込んだ。 「あなたの食欲なんかで、私たちの未来は終わらせない!」
ドゴオオオオオォォォォォン!!!!!
全次元を揺るがす大爆発。 そのエネルギー量は、ビッグバンにも匹敵するほどの輝きを放った。
絶望の捕食
しかし。 光が晴れた後、そこにいたのは、無傷のアナザーだった。
『あぁ……美味い。極上のフルコースだ』
アナザーの全身に開いた無数の口が、ゲップをした。 彼女は、彼らの必殺技を、その「意味」ごと咀嚼し、飲み込んでしまったのだ。
「そんな……全力だったのに……」 「ダメージが……ゼロだと……?」
クロードが膝をつく。ライオネルの剣が欠け、セバスチャンが機能不全のスパークを上げる。 圧倒的な「容量」の差。彼らの全てを以てしても、この怪物の空腹を満たすことすらできなかった。
『ご馳走様。次は、お前たち自身をいただこうか』
アナザーの無数の触手が、動けなくなったリリアーナたちに殺到する。 万事休す。
解析者の到来
「――ったく。脳筋ばっかりなんだから、この世界の人たちは」
その時。 絶望的な戦場に、場違いなほど冷静で、呆れたような声が響いた。
「え……?」
リリアーナが顔を上げると、時空の裂け目から、白衣を着た一人の女性が降り立った。 眼鏡を押し上げ、手にはタブレットのような端末を持っている。
それは、統合された世界線において、本物のリリアーナと意気投合し、共に世界線の研究をしていた、リリアーナ(ユナ)の元の世界の親友。
ミサキだった。
「ミサキ!? どうしてここに!」
「ユナ(リリアーナ)が勝手に過去に行っちゃうから、**『本物のリリアーナ』**と一緒に座標を計算して追いかけてきたのよ!」
ミサキの後ろから、この世界線の本物のリリアーナも現れ、優雅に魔術障壁を展開して触手を防いだ。
「お待たせしました、皆様。……少し、分析に時間を要してしまいましたわ」
意外な弱点
ミサキは、タブレットを操作しながら、巨大な肉塊となったアナザーを指差した。
「みんな、物理で殴っても無駄よ。あいつは今、概念的な『胃袋』そのものになってるから」
「じゃあ、どうすればいいんだ!」クロードが叫ぶ。
ミサキは不敵に笑った。
「弱点は、意外なところ……いえ、あいつが食べたものの中にあるわ」
彼女は、アナザーの腹部――膨張し、脈打っている中心部分を指し示した。
「あいつ、**アザトース(論理)**を丸飲みしたでしょ? それが最大のミスよ」
ミサキは解説した。 アナザーの今の形態は**「暴食」「本能」「混沌」の塊だ。 対して、アザトースは「秩序」「論理」「理性」**の塊だ。
「『本能』は『論理』を消化できない。今、あいつのお腹の中では、吸収されたアザトースの論理データが、猛烈な勢いで**『消化不良』**を起こしてるわ」
本物のリリアーナが補足する。
「つまり、彼女は今、全知全能に見えて、内側では**猛烈な腹痛に苦しんでいる状態です。外からの攻撃は吸収できても、内側からの『論理的な拒絶』**には脆い」
ミサキが、リリアーナ(ユナ)を見た。
「ユナ。あんたならできるでしょ? 外から殴るんじゃなくて、**中のアザトースに『呼びかける』**のよ。彼を目覚めさせて、内部からアナザーを否定させる。それが、唯一の勝機よ!」




