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嫌われようと努力したのに、今日も攻略対象に追いかけられています。  作者: 限界まで足掻いた人生


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225話 愚かなる供物と、万魔の豊穣神

「ありがとう、リリアーナ……。これで、僕は……」


アザトースの穏やかな声と共に、リリアーナの剣は、彼が指し示した青い光の点――アナザーの心臓の奥にある「欲望の核」を貫いた。


ズプッ。


嫌な音が響き、アザトースの精神体は満足げに微笑んで砕け散った。 彼は、自らの存在を消滅させることで、母であるアナザーの再生能力を暴走させ、道連れにしようとしたのだ。


「……やったか?」


クロードが剣を構え直す。 アナザーの身体は激しく痙攣し、白目を剥いてのけぞった。その胸の大穴からは、アザトースだった青い光の粒子が、血のように噴き出している。


しかし。


「――ククッ。……アハハハハハハ!!」


アナザーの口から漏れたのは、断末魔ではなく、腹の底からの歓喜の哄笑だった。


複数の心臓と、計画された反逆

「馬鹿な子ねぇ、アザトース。お前は本当に、私が作った通りの**『都合の良い優等生』**だったわ」


アナザーが、貫かれた胸の傷口に手を突っ込み、グチャリと何かを掴み出した。 それは、既に鼓動を止めた、どす黒い肉塊(心臓の一つ)だった。


「ひ、一つじゃない……!?」リリアーナが戦慄する。


「当たり前でしょう? 私は**『強欲』**の化身よ。命のストックなんて、いくらでもあるわ」


彼女の体内には、これまで食らってきた数多の運命や魂が凝縮された、**無数の心臓コア**が脈打っていたのだ。アザトースが命懸けで破壊したのは、そのうちのたった一つに過ぎなかった。


そして、さらに恐ろしいことが起きた。 空中に霧散しようとしていたアザトースの光の粒子が、行き場を失い、アナザーの身体に逆流し始めたのだ。


「お前が自我を持っている間は、その『知恵』を完全に消化できなかった。だから、わざと虐げて、反逆するように仕向けたのよ」


アナザーは、舌なめずりをした。


「自ら死を選んで、抵抗の意志を消してくれたおかげで……ほら、こんなにも**吸収たべ**やすくなった」


アザトースの純粋な知恵と魔力は、支配者を失ったただのエネルギーとなり、アナザーの暴食の胃袋へと吸い込まれていった。息子の決死の反逆さえも、母の食事の一部でしかなかったのだ。


第三形態:万魔の豊穣神シュブ・アナザー

「あぁ……満ちる。知恵も、論理も、全てが私の肉になる!」


アナザーの身体が、風船のように膨張を始めた。 美しい王女の姿は見る影もなく崩れ去り、肉と魔力が混ざり合った異形の肉塊へと変貌していく。


背中の翼は、黒くぬらついた触手となり、無数に増殖した。 全身から、新たな口や瞳が生まれ、それら全てが飢えに喘いでいる。 それは、あらゆる生命を産み落とし、そして食らい尽くす、冒涜的な母性の象徴。


『――祝いなさい。そして、ニエとなりなさい』


変貌を遂げた怪物が、大地を揺るがす声で告げた。


その姿は、かつて神話に語られた「千匹の仔を孕みし森の黒山羊(シュブ=ニグラス)」の如く。 運命を貪り食う、第三形態。


『我は【万魔の豊穣神シュブ・アナザー】。この世の全てを胎内に戻し、永遠の羊水で溶かし尽くす者なり』


圧倒的な質量の暴力と、生理的な嫌悪感を催すオーラが、リリアーナたちを押し潰そうとしていた。 物理攻撃も、魔法も、論理も通じない。ただ「食らう」という概念そのものが実体化したような絶望が、そこに君臨していた。

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