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嫌われようと努力したのに、今日も攻略対象に追いかけられています。  作者: 限界まで足掻いた人生


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224話 檻の中の論理、涙する知神

リリアーナの断罪の一撃が、アナザーの心臓を穿つ。 その瞬間、アナザーの身体から噴き出していた青い光――吸収された知神アザトースの力が、主の制御を離れて暴走を始めた。


「が、あぁぁ……!? な、何だ……アザトース!? 貴様、まだ意識が……!」


アナザーが苦悶の声を上げる。 彼女の胸の傷口から、ノイズ混じりの、しかし確かに感情を帯びた少年の声が響き渡った。


『……痛い……もう、嫌だ……母上……』


それは、冷徹な論理の神の声ではなかった。 虐待され、逃げ場を失った子供の、悲痛な泣き声だった。


知神の正体:「冷蔵庫」としての機能

リリアーナの脳内に、アナザーの走馬灯とは異なる、もう一つの記憶が流れ込んでくる。 それは、アザトースの視点から見た、地獄のような真実だった。


幼いアザトースは、世界の創造主たるアナザーによって生み出された。 だが、それは「愛する我が子」としてではない。


アナザーは、食欲と性欲のままに世界を食い荒らす「カオス」そのものだった。 しかし、好き放題に食い荒らせば、世界はすぐに崩壊し、彼女の「餌」がなくなってしまう。 だから、彼女は作ったのだ。


『壊れかけの世界を、論理ロジックで無理やり繋ぎ止め、餌を長持ちさせるための管理者』


それが、アザトースの役割だった。


『ほら、アザトース。きちんと整理なさい。この人間たちはまだ食べ頃じゃないわ。秩序を与えて、もっと美味しくなるまで管理するのよ』


『はい……母上……』


彼が求めた「究極の秩序」とは、理想郷を作るためではなかった。 母親の暴食によって崩れ去る世界を、必死に計算し、補修し、**「僕がしっかり管理しないと、母さんが全部壊してしまう」**という恐怖心から生まれた、強迫観念だったのだ。


彼が感情を捨てたのも、非人道的な実験を黙認したのも、そうしなければアナザーの飢餓が満たされず、世界ごと消滅させられるから。 彼は、狂った母親の暴力を「論理」というオブラートで包み隠すことを強いられた、哀れな共犯者に過ぎなかった。


道具の反逆

「……そうか。お前も、食われていたのか」


リリアーナは、剣を通じてアザトースの悲しみを感じ取った。 彼もまた、アナザーという絶対悪に運命を歪められた、被害者の一人だったのだ。


現実世界で、アナザーが苛立ちを露わにする。


「チッ、役立たずめ! 私が食べるまで鮮度を保つ**『冷蔵庫』**の分際で、持ち主に逆らうな! 大人しく養分になれ!」


アナザーは、体内からアザトースの意識を完全に消滅させようと、消化の魔力を強めた。


だが、その時。 アナザーの身体を覆っていた青い光が、内側から棘のように突き出し、彼女自身の肉体を貫いた。


『……僕は、冷蔵庫じゃない……!』


アザトースの絶叫が響く。


『僕だって……本当は……こんな世界、見たくなかった! カオスも、論理も、もうたくさんだ!!』


アザトースは、残された全ての演算能力を使い、アナザーの**「再生能力の論理」を、内部から「自己崩壊の論理」**へと書き換えた。


「な、何を!? やめろ! 私の身体が……計算通りに動かない!?」


「リリアーナ!!」


アザトースの声が、リリアーナに届く。


『ここだ! 母上の「欲望の核」を……僕ごと貫け!! これが、僕が導き出した……最初で最後の、自由への解だ!!』


それは、知神アザトースが初めて自分の意志で選び取った、母親への反逆であり、自らへの贖罪だった。


「わかったわ、アザトース! あなたも一緒に……楽にしてあげる!」


リリアーナは、アザトースが青い光で指し示した一点――アナザーの心臓のさらに奥、底なしの欲望が渦巻く核めがけて、剣を突き立てた。

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