222話 暴走する破壊神と、脆き装甲
『消えろ! 消えろ! 私の脚本に、修正液はいらない!!』
運命の破壊神となったアナザーが、狂乱のままに「断罪の鎌」を振り回す。 その一撃の威力は、先ほどまでの「運命操作」とは次元が違っていた。鎌が空を切るたびに、時空そのものに亀裂が走り、物理的な衝撃波が核爆発のように広がる。
「くっ……! 重い……!!」
レオンハルトが展開した「不滅の聖壁」が、たった一撃でひび割れる。 ライオネルが剣で受け流そうとするが、その衝撃だけで地面ごと数メートル後退させられる。
攻撃力は、桁違いに跳ね上がっていた。触れれば即死。防御すら貫通する圧倒的な暴力。 しかし――。
観測された弱点
「……妙ですね」
後衛で戦況を分析していたカイとセバスチャンが、同時に呟いた。
「どうした、二人とも!」クロードが叫ぶ。
「アナザーのエネルギー出力は計測不能なほど上昇しています。しかし……装甲強度が、著しく低下しています」
セバスチャンが眼鏡の位置を直し、冷静に指摘した。 アナザーが鎌を振るうたび、その強大すぎる反動で、彼女自身の**「光の鎧」に亀裂が走っている**のだ。
「彼女はアザトース(知恵)を無理やり吸収し、出力に全振りしました。その代償として、かつて持っていた**『絶対防御』**という概念的な守りを捨てています!」
カイが結論を告げる。
「つまり、今の彼女は……打たれ弱い!」
捨て身の物理法則:作用・反作用
クロードの瞳が鋭く光った。 「なるほど。**『作用・反作用の法則』**だ」
どれほど強大な力を放とうとも、物体には必ず同等の反動が返ってくる。 以前のアナザーは「物語の作者」という特権でその法則を無視していたが、物理的な破壊神となった今、彼女もまた物理法則の枷からは逃れられない。
「攻撃力が上がれば上がるほど、自らの肉体にかかる負荷も増大する。……そこを突くぞ!」
クロードが号令をかける。
「全員、回避は最小限だ! 奴が最大火力を放つ瞬間、その**『反動』**で動きが止まる刹那を狙え!」
カウンターの布石
『死ねぇぇぇぇッ!!』
アナザーが、最大級の魔力を鎌に込め、横薙ぎに振るった。 次元ごと切断するような、必殺の一撃。
「今や! 【千羽の舞・乱気流】!!」
千代が杖を振るい、あえてアナザーの足元に混沌の気流を発生させる。 攻撃を止めるためではない。「踏ん張り」を効かなくさせるためだ。
足場が狂った状態でフルスイングをしたアナザーは、自身の強大すぎる遠心力に振り回され、身体の軸がブレた。
バキベキッ!!
アナザーの肩と腰の装甲が、自らのパワーに耐えきれずに砕け散る。
「ぐ、うぅっ……!?」
「そこだ!!」
その隙を見逃すリリアーナたちではない。
ガラスの神を砕く
「お返しだ!」
ライオネルが、アナザーの砕けた肩口に、渾身のタックルを叩き込む。 魔法ではない。純粋な質量弾としての体当たり。 以前なら弾かれていただろう攻撃が、今は深くめり込み、アナザーをよろめかせた。
「効いている……! 物理攻撃が通るぞ!」
「ならば、これでどうですか!」
セバスチャンとカイが、左右から同時に魔力弾を放つ。 狙うのは、装甲が剥がれ、露出した魔力回路(血管)。 熱を持った傷口に、冷徹な魔力が突き刺さる。
「ぎゃああああッ!!」
アナザーが悲鳴を上げた。 かつてのような「無効化」も「書き換え」も起こらない。 彼女は今、ただの**「巨大で、強力で、しかし脆い生物」**に成り下がっていた。
「リリアーナ! とどめだ!」
クロードが、リリアーナの背中を押す。 アナザーは痛みにのた打ち回りながらも、反射的に鎌を振り上げた。防御ができないなら、相打ち覚悟で敵を殺すしかない。
「させるか!」
レオンハルトが、盾ではなく、自らの身体で鎌の柄を押さえ込み、その動きを封じる。
ガラ空きになったアナザーの胸元。 そこに、リリアーナが飛び込んだ。
「あなたの脚本は、もう守ってくれない!」
リリアーナの剣が、脆くなった破壊神の装甲を、紙のように貫いた。




