22話 新たな始まりの予兆
翌朝、私はいつもより早く目を覚ました。ベッドから降り、窓を開けると、清々しい空気が部屋に流れ込む。昨日の夕方、レオンハルト殿下と交わした言葉が、私の心の中で光を放っていた。
私は、愛されることから逃げ続けてきた。しかし、これからは、愛する勇気を持ち、歩いていこう。その決意を胸に、私は、その日の予定をすべて変更した。
まず、私は庭に向かった。
「殿下からの贈り物は、すべて処分するように」と、以前メイドたちに命じていた。それは、殿下の愛を恐れるあまりの、無意味な行為だった。
庭師が、殿下が贈ってくれた花々を丁寧に手入れしている姿を見て、私は胸が痛んだ。彼らが摘み取ろうとするのを、私は慌てて止めた。
「待ってください。その花は、そのままにしておいてください」
メイドたちが驚いた表情で私を見つめた。無理もない。これまで、私は殿下からの贈り物をすべて拒絶し、まるで彼から贈られたものがこの世に存在しないかのように振る舞ってきたのだから。
「殿下がお贈りくださった花々は、わたくしにとって、とても大切なものです」
私の言葉に、庭師は困惑した表情を浮かべた。しかし、私は続けた。
「これからは、殿下からの贈り物を、すべて受け取ります。そして、一つひとつを、大切に手入れしてください」
私の言葉に、庭師とメイドたちは、ようやく安堵の表情を見せた。
庭を後にした私は、書斎に向かった。そこには、殿下が送ってくれた、たくさんの書物や楽譜が、埃をかぶったまま放置されていた。私は、それらを一つひとつ手に取り、丁寧に埃を払った。
その中には、殿下が自ら筆を執って記したという詩集もあった。今まで、私は怖くて、その詩集を開くことができなかった。それは、殿下の愛が、私の心を支配してしまうのではないかと恐れていたからだ。
しかし、今は違う。
私は、ゆっくりと、その詩集を開いた。
そこに記されていたのは、私への想いを綴った、美しく、そして切ない言葉の数々だった。殿下は、私が彼を愛してくれないことを知っていた。それでも、彼は、私への想いを、詩という形で、静かに、そして一途に綴っていたのだ。
彼の想いが、私を縛るものではなく、ただただ、私を大切に想う気持ちだったと、初めて理解した。
私の心に、温かい光が灯った。それは、愛されることへの恐れではなく、愛することへの希望だった。
私は、殿下が贈ってくれた書物を、すべて読み、彼の好きな音楽を、すべて聴いてみようと決めた。そして、私自身の意志で、彼を愛せるかどうか、確かめてみようと。
私が、愛されることを望んだことはない。しかし、愛したいと、そう願ったことも、なかった。
けれど、今は違う。
私は、愛したい。
その想いが、私を、新たな世界へと導いてくれるだろうと、私は信じていた。そして、それは、これまで私の心を閉ざしていた扉を、ゆっくりと開けていくような感覚だった。




