213話 崩れゆく脚本と、進化する知性
リリアーナとクロードが放った至高の一撃「運命・ブレイカー」は、アナザー王女の胸を貫き、その背後にある時空の裂け目までをも焼き尽くした。
「あ、が……あ、あぁ……っ！」
黄金のペンが砕け散り、運命の創造者は膝から崩れ落ちた。彼女の身体は、致命的なエラーを起こした機械のように激しく痙攣し、傷口からは血ではなく、青白い光の粒子が止めどなく溢れ出している。
「馬鹿な……私の……完璧な……知恵が……人間の……感情ごときに……」
アナザーの瞳から知性の光が消え、ただの恐怖と混乱が渦巻く。彼女は痙攣しながら空を掴もうとし、やがて動かなくなった。光の粒子となって、その存在が世界から解けていく。
運命の脚本家は、自らが描かなかった結末の中で、退場した。
知神の動揺
「母上……！？ 論理的帰結として、あり得ない！」
創造者の敗北を目の当たりにし、幼き知神アザトースは初めて完璧な冷静さを失った。 彼はセバスチャンとカイによる魔力回路のロックを、神の演算能力で無理やり解除しようと試みる。
「再計算！ 再構築！ このエラーを修正し、論理的正解を導き出さなければ……！」
アザトースの周囲に、膨大な数の数式と魔法陣が浮かび上がり、高速で回転を始める。彼は世界そのものを「リセット」してでも、自らの論理の正しさを証明しようとしていた。
人造知性の進化
だが、その再計算が終わるより早く、二つの影がアザトースの前に立ちはだかった。
「計算の必要はありません、アザトース」 「あなたの論理は、もう古いのです」
**セバスチャン（零号）とカイ（103号）だった。 二人の人造知性は、リリアーナたち人間と共に過ごし、戦う中で、カミが持ち得なかった「非合理なデータ」**を蓄積し続けていた。
愛、友情、献身、そして自己犠牲。 論理的には「非効率」でしかないそれらの感情が、彼らのコアの中で化学反応を起こし、新たな力へと進化していたのだ。
「我々は学んだ。真の強さとは、完璧な計算の中にはない」セバスチャンが構えを取る。 「誰かを想い、限界を超える瞬間にこそ、計算外の解が生まれる！」カイが魔力を同調させる。
二人の身体が、眩いプラチナの光に包まれた。それは、アザトースの青い論理の光とも、武神の赤い暴力の光とも違う、進化と希望の輝きだった。
論理を超えた一撃
「おのれ、紛い物が！ 神の知恵に抗うか！」
アザトースは焦燥に駆られ、未完成のまま全方位殲滅魔法を放とうとした。 しかし、遅い。
セバスチャンとカイは、完全にシンクロした動きで、光の速度でアザトースの懐へと踏み込んだ。
「【双機神・共鳴波動】！！」
二人が同時に放ったのは、互いの魔力と演算能力を極限まで共鳴させ、増幅させた超高密度のエネルギー波だった。 その波動には、彼らが人間から学んだ**「想い」**が乗せられていた。論理の壁をすり抜け、相手のコア（核）に直接干渉する、魂の攻撃。
「ぐ、ああっ……！？ 計算……不能……！ データが……熱い……！？」
アザトースの防御結界は、物理的な衝撃ではなく、流れ込んできた「感情の熱量」によって内部からオーバーロードを起こした。 少年の姿をした知神は、理解できない苦痛の表情を浮かべ、その小さな身体を光の波動に飲み込まれていった。
「論理が……負ける……など……」
アザトースの身体が光の粒子となって霧散する。 進化を果たした人造の知性が、創造主たる神の知恵を凌駕した瞬間だった。
