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嫌われようと努力したのに、今日も攻略対象に追いかけられています。  作者: 限界まで足掻いた人生


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207話 完遂された脚本と、絶望の完全知恵

進化する絆の力

リリアーナとアナザー王女の一騎打ちは、次元を超えた激闘となっていた。


当初は「劣化コピー」に過ぎなかったリリアーナの能力だが、剣を交えるたびに、その質が変貌していく。クロードの剣筋の癖、レオンハルトが盾を構える時の呼吸、セバスチャンが敵の死角を突くタイミング。 仲間たちと共に過ごした記憶と、培った深い信頼が、リリアーナの中で**「理解」**へと昇華されたのだ。


「見える……! みんなが、私に教えてくれている!」


リリアーナの剣速が、本物のライオネルをも凌駕する一閃を放つ。防御はレオンハルト以上の鉄壁となり、回避はセバスチャンの如く変幻自在。 それはもはや劣化ではない。本物と同等、いや、想いの分だけそれ以上の練度に達していた。


「はああああっ!!」


リリアーナの放った斬撃が、アナザー王女の黄金のペンを弾き飛ばし、その頬に一筋の傷をつけた。 創造者が、被造物に押されている。


「終わりよ、アナザー! あなたの脚本は、私たちの意志が破った!」


リリアーナは確信した。あと一撃。このまま押し切れば、勝てる。運命は変えられる。


不穏な共鳴

しかし、トドメの一撃を振り上げた瞬間、リリアーナの背筋に、得体の知れない悪寒が走った。 空間が凍りついたような、異様な静寂。


目の前のアナザー王女。 そして、後方に控えていた幼き知神アザトース。


二人の口元が、全く同時に、三日月のような不敵な笑みの形に歪んだ。


「……ご苦労」 「……解析完了」


二人の声が重なる。 次の瞬間、リリアーナの身体が、見えない力によって弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「な、なに……!?」


完全なカミの知恵

アザトースが、無機質な瞳を輝かせながら一歩前に出た。彼の手には、複雑怪奇な幾何学模様が浮かび上がっている。


「リリアーナ。君のその力は、母上アナザーがかつて作り出した**『擬似的なカミの知恵』**が、人間の感情というノイズを取り込み、変異したものだ」


アザトースは、空中に数式のような光の文字を羅列する。


「私は、君が必死に戦い、その力を練り上げるのを待っていた。君の**『進化』こそが、擬似知識に含まれていた論理的齟齬バグを洗い出し、修正するための最後のサンプルデータ**だったのだ」


アザトースは、完成した光の数式を、掌に収束させた。


「不純物の除去、完了。論理構造の再構築、完了。……**『完全なカミの知恵』**を確立」


アザトースは、その光を自らの胸ではなく、アナザー王女へと向けた。 『血縁共有ブラッド・シンク』。 創造者と知神の血の繋がりを利用した、知識と力の即時転送。


「受け取ってください、母上。これが、あなたが求めた真理です」


脚本家の真意

アナザー王女は、アザトースから送られた光を全身で受け止めた。彼女の傷は瞬時に癒え、その背後には、リリアーナの想像を絶する**神々しい光の翼(知識の具現化)**が出現した。


「素晴らしい……。これぞ、全知全能」


アナザーは、絶望に震えるリリアーナを見下ろし、慈悲深くも残酷に告げた。


「リリアーナよ。お前は勘違いをしている。私の目的は、単に運命を操ることではない。この**『完全なカミの知恵』**を手に入れることこそが、悲願だったのだ」


かつてアナザーたちが砂時計を探し求めたのも、全てはこの知恵に至るため。 砂時計が見つからず、擬似知識で妥協した過去。しかし、それは不完全だった。完全なものにするためには、一度人間に与え、感情という炉で精製させ、極限まで進化させる必要があったのだ。


「砂時計の発見、お前の抵抗、仲間たちの死、そしてこの最終決戦……。全ては、お前に**『擬似知恵』を進化させ、それを私が収穫**するための工程に過ぎない」


「そんな……全部……私が頑張ったこと全部が……」


リリアーナの手から、剣が滑り落ちた。 彼女の努力も、愛も、仲間たちの尊い犠牲も。全ては、敵を最強にするための養分でしかなかった。


「イレギュラーは多々あったが、概ね計画通りだ。感謝するぞ、最高の実験動物よ」


アナザー王女が軽く手を振ると、リリアーナが展開していた「不滅の盾」も「停止の力」も、ガラス細工のように粉々に砕け散った。 完全な知恵の前では、劣化コピーの能力など、赤子同然だった。


「あ……あぁ……」


勝ち筋は、途絶えた。 リリアーナは、絶対的な敗北と、底なしの絶望の淵に叩き落とされた。

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