197話 泥沼からの覚醒と砂時計の真実
泥沼と化していた千鶴との戦いは、リリアーナ女王の**「万象の光」**、すなわち仲間たちの力を一時的に最大限に引き出したことで、徐々に彼女の優勢へと傾き始めていた。
「バカな…!なぜ、お前は倒れへん!その力は、劣化コピーのはずやろ!」
千鶴は、連続して放った論理と暴力の複合攻撃が、全てリリアーナの非論理的な意志によって受け流されたことに、焦燥を募らせた。リリアーナは、セバスチャンの論理解析で千鶴の攻撃パターンを予測し、レオンハルトの意志で防御の時間を稼ぎ、ライオネルの力で反撃に転じていた。
「あなたの攻撃は、予測可能だわ、千鶴」
リリアーナ女王の声は、微かに血の混じった掠れた声だったが、その虚ろだった瞳には、もはや迷いはない。彼女の身体は、クロード王子の短剣を力強く握りしめ、千鶴の次の一手を静かに待っていた。
覚醒の反撃
千鶴が武神の力を再び集めようとした、その刹那――
リリアーナ女王は、クロード王子の「運命の戦略眼」を、初めて攻撃に転用した。彼女は、千鶴の精神的な弱点、つまり**「愛を裏切られた遊女時代の絶望」**をピンポイントで予測した。
リリアーナの短剣は、千鶴の防御を無視し、彼女の魂の記憶を穿つかのように、時の境界の概念的な場所を叩いた。
「ああっ!」
千鶴の顔が、激しい苦痛に歪んだ。彼女の攻撃の源泉である遊女時代の憎悪が、その瞬間、剥き出しにされたのだ。千鶴は、その憎しみが世界を救うための純粋なエネルギーではなく、個人の悲しい記憶に過ぎないことを突きつけられた。
千鶴は大きく後退し、息を整えた。泥沼と化していた戦いは、リリアーナ女王の決定的優勢へと転じた。
砂時計の真実
リリアーナ女王は、千鶴の動揺を見逃さなかった。彼女は、剣を構えたまま、千鶴に問い詰めた。その問いは、彼女が長年抱えてきた、世界の真の運命に関する疑問だった。
「千鶴。あなたの憎しみも、アザトースの論理も、全てがこの砂時計に触れることが目的だった」
リリアーナは、背後で静かに時を止めている巨大な砂時計を指差した。
「答えて。この砂時計に触れると、一体どうなる?カミがこの世界を支配する、真の最終目的とは、何だったの?」
千鶴は、屈辱と敗北の淵に立たされながらも、その口元に歪んだ笑みを浮かべた。彼女は、自らの敗北と引き換えに、究極の知識を人間であるリリアーナに与えるという、最後の混沌の物語を演出することにした。
「フフフ…知りたいんか、リリアーナ。あんたらの命懸けの犠牲が、何のための小道具やったかをな」
千鶴は、その瞳の奥に宿る、遊女時代の孤独な絶望を映し出しながら、真実を語り始めた。




