196話 虚ろなる瞳の奥の、万象の光
夜伽の闇よりも深い絶望が、リリアーナ女王の心を蝕んでいた。しかし、その凍てついた魂の奥底で、愛する者たちの残滓が、微かな光を放ち、彼女を戦場に繋ぎ止めている。
千鶴の猛攻は、嵐の如く、彼女の肉体と精神を打ち砕かんと迫る。
「フン!死んだ奴らの力を借りて、そんなに惨めな抵抗がしたいんか!?あんたの絶望は、わての最高の混沌になるんや!」
千鶴の嘲罵が響く中、彼女の放つ武神の紅蓮たる拳が、空間をねじ曲げ、リリアーナの眼前に迫る。その速度は、肉眼では捉えきれぬほどだが、リリアーナの瞳は虚ろなままでありながら、その奥に宿るセバスチャンの「非合理な戦闘技術」が、死角を縫うように彼女の身体を舞わせた。彼女の意識は、既に亡き友の「論理」と一体化し、生気のない、まるで生ける屍のようであった。
回避の直後、千鶴は知神の青き論理の奔流を、部屋全体へと展開した。
「無駄や!お前の意志など、わての論理の前には無力や!」
リリアーナの全身に、再びレオンハルトの「不滅の盾」の残滓が展開される。脆く、儚い光の膜が、絶対的な論理の奔流に抗う、悲劇的な光景であった。盾は音を立てて軋み、砕け散る寸前だが、その一瞬の抵抗が、彼女に「抗う時間」を与える。
千鶴は、自らの混沌の力を、ライオネルの「攻撃力」と融合させ、闇を切り裂く異形の剣を召喚する。
「終わりや!この剣で、お前の偽りの希望ごと断ち切ったる!」
絶対的な破壊の意志を宿した斬撃が、リリアーナの喉元を狙う。リリアーナは防御を捨て、砕け散った盾の破片を、クロード王子の短剣に宿したライオネルの攻撃力で、一点に集中させる。
「ライオネル様…貴方が教えてくれた**『一点突破の勇気』**…」
彼女の心の中で、無言の覚悟が叫ばれる。光と闇が交錯する中で、リリアーナの短剣と千鶴の剣が激突し、激しい火花と衝撃が部屋全体を揺るがす。リリアーナの身体からは、新たな血が滲み出るが、彼女はまだ倒れてはいない。その虚ろな瞳の奥に、愛する者たちの万象の光が、今、確かに輝いていた。




