195話 回想の剣、未来の盾
千鶴の圧倒的なカミの攻撃に対し、リリアーナ女王は、死んだ仲間たちの力を借り、かろうじて耐え凌いでいた。彼女の虚ろな瞳の奥には、今もなお、遠い過去の記憶が閃光のように蘇っては消えていく。
過去の風景、現代の戦場
千鶴は、リリアーナの抵抗が、単なる人間の能力を超えていることに苛立ちを募らせた。
「フン!死んだ奴らの力を借りて、そんなに惨めな抵抗がしたいんか!?あんたの絶望は、わての最高の混沌になるんや!」
千鶴は、再び武神の赤い暴力を解き放ち、リリアーナに向けて無数の魔力弾を撃ち出した。
リリアーナの身体は、まるで自動人形のように、セバスチャンの非合理な戦闘技術によって、最小限の動きで全ての魔力弾を紙一重で回避していく。
(セバスチャン…貴方が、私を動かしてくれているのね…)
その回避の合間、リリアーナの脳裏に、かつてセバスチャンが**「王の護衛」**として、彼女の命を幾度となく救った記憶が蘇った。
「リリアーナ様、危険です!その方向へは!」
セバスチャンの声は、いつも冷静だった。彼は、リリアーナが危険に近づくたび、まるで未来を見通すかのように的確な指示を出し、彼女を幾度となく救ってきた。
「セバスチャン…なぜ、そんなことが分かるの?」
「これは、非合理な直感と、リリアーナ様の行動パターンを予測する論理の組み合わせです。ですが、陛下を護るためには、これくらいは当然かと」
リリアーナの心に、セバスチャンへの感謝が込み上げる。その直後、千鶴の放った知神の青い論理の鎖が、リリアーナの四肢を捕らえようと迫る。
「逃がさへんで!お前の動きも、思考も、全てわての論理で縛りつける!」
リリアーナは、捕らえられそうになった瞬間、レオンハルトの「不滅の盾」の力を、自身の全身に微かな衝撃波として放出した。それは、物理的な防御ではなく、知神の論理の鎖を、一時的に**「無意味化」**するような、意識的な抵抗だった。
鎖は、一瞬だけリリアーナの身体を通過したが、彼女の自由な動きを完全に奪うことはできなかった。
(レオンハルト殿下…貴方の、不屈の意志が…)
リリアーナの脳裏に、レオンハルトが、どんな絶望的な状況でも**「諦めない心」**で戦い抜いた記憶がよぎる。
「リリアーナ、諦めるな!僕たちが君を守る!どんな困難も、共に乗り越えるんだ!」
レオンハルトの言葉は、いつも彼女を励まし、立ち上がらせる力を持っていた。彼の揺るぎない眼差しは、リリアーナにとって、何よりも強い盾だった。
しかし、千鶴の攻撃は止まらない。彼女は、空間を歪ませ、リリアーナの背後から武神の巨大な拳を顕現させた。
「終わりや!あんたの偽りの希望ごと、砕き潰したる!」
リリアーナは、避けきれないと判断し、ライオネルの「論理の剣」の攻撃力を、己の心臓に集中させた。
「私の命は…ここで終わらせない!」
彼女の虚ろな瞳に、戦士としてのライオネルの猛々しい炎が宿った。クロード王子の短剣を握りしめ、来るべき攻撃に対し、一点突破のカウンターを狙う。
(ライオネル様…貴方の強さを…今、私に…!)
リリアーナは、愛する者たちの力を借りて、孤独な戦いを続けていた。彼女の心と身体は限界に近いが、その虚ろな瞳の奥に宿る**「彼らの意志」**が、彼女をまだ戦場に繋ぎとめていた。




