194話 最後の対決:女王と混沌の支配者
フレイア王城の最奥、クロード王子の遺品に囲まれた私的な部屋。リリアーナ女王は、時の砂時計を前に、極度の憔悴の中で最後の敵を待ち構えていた。
重い扉が軋む音と共に開いた。そこから現れたのは、憎しみに満ちた笑みを浮かべる千鶴だった。
孤独な女王と混沌の支配者
千鶴は部屋に入り、砂時計の前に座り込む人物を一瞥した。彼女は最初、この人物をリアンだと誤認した前回の記憶を思い出し、警戒したが、その深い絶望の空気から、目の前の存在がリリアーナ女王であると瞬時に理解した。
「フン。リリアーナ…まさか、あんたがここで時の番人になっとったとはな」
千鶴は、リリアーナ女王の憔悴しきった姿を見て、歪んだ同情と、憎悪を強めた。
「あんた、クロードを失って、その上、こんな役目まで背負わされたんか。あんたの愛も、犠牲も、全部、無駄やった。この世界は、あんたの悲劇の上に成り立っとるんやで」
千鶴は、巨大な砂時計を指差した。
「わての目的は、この砂時計に触れること。この世界の全ての運命、全ての時間軸を支配する、究極の知識を手に入れ、世界を永遠に予測不能な混沌に変えるんや。あんたの築いた偽りの秩序は、ここで終わる!」
三柱の攻撃と五つの力
千鶴は、言葉の応酬を終えると、即座に攻撃に移った。彼女の体から、武神の赤い暴力、知神の青い論理、そして自身の黒い混沌が融合した、三柱のカミの力が放出された。それは、部屋の空間そのものを歪ませ、時間の流れをねじ曲げる、運命を否定する絶対的な一撃だった。
「消えろ、悲劇の女王!」
その攻撃は、人の身では到底受けられるものではない、世界の法則そのものへの干渉だった。
リリアーナ女王は、その圧倒的な力の奔流を前に、**虚ろだった瞳に、一瞬だけ、微かな光を宿した。それは、希望の光ではなく、「彼らのために、ここで終わるわけにはいかない」**という、殉教者のような、しかし確固たる意志の輝きだった。
彼女の身体は、崩れ落ちるクロード王子の傍で完成させた**「運命の共鳴器(コピー装置)」**によって駆動した。
「私は…もう一人じゃない!」
彼女の体内で、死んでいった仲間たちの力が、劣化バージョンとして、しかし愛という意志によって増幅され、覚醒した。
千鶴の**『武神の紅蓮の波動』**がリリアーナの心臓めがけて放たれた、その刹那―― リリアーナの全身に、レオンハルトの「不滅の盾」の残滓が、半透明の膜のように展開された。それは、武神の剛力に比べればあまりに脆く、ガラス細工のような盾だったが、決壊寸前の水流を一時的にせき止めるかのように、僅かに攻撃を減衰させた。
その一瞬の猶予で、リリアーナの体が、セバスチャンの「零号の非合理な戦闘技術」によって、まるで時間を逆行するかのように、千鶴の攻撃の死角へと滑り込んだ。彼女の動きは、物理法則を超越し、無駄なく、そして美しかった。
だが、千鶴の攻撃は、既にリリアーナの盾を打ち砕き、その余波が部屋全体を破壊の嵐へと変えていた。リリアーナは、回避しきれない直撃を覚悟した瞬間――
ライオネルの「論理の剣」の集中攻撃力が、彼女の右腕に、一瞬だけ漆黒の輝きを宿らせた。リリアーナは、咄嗟に近くにあったクロード王子の形見の短剣を手に取り、その輝きを乗せて、千鶴の攻撃の最も弱い一点をピンポイントで突き破った。
それは、剣の技というよりも、一点に集約された破壊の衝動そのものだった。
千鶴の圧倒的な攻撃は、リリアーナの盾を打ち砕き、部屋の壁を大きく抉ったが、リリアーナ女王は辛うじて致命傷を避けた。しかし、その代償として、彼女の全身からは、血が滲み出ていた。
「な…に…?この力は…!」
千鶴は、自分の圧倒的な攻撃を、**「死んだはずの仲間たちの劣化コピー」**とはいえ、一人の人間が受け止めたことに驚愕した。
リリアーナ女王は、息を荒げ、視線は虚ろながらも、その瞳の奥には、仲間たちの残滓が灯る、最後の意志が宿っていた。彼女は、血を流しながらも、愛する仲間たちの力を背負い、最後の戦いに挑む覚悟を決めた。




