193話 愛しい場所と孤独な待ち人
リリアーナ女王は、リアンの能力をコピーし、巨大な砂時計を完全に停止させた。しかし、その力は劣化バージョンであり、停止を維持するためには、リアンと同様に絶え間ない集中を要した。
「リアン様。あなたは、もう休んでください。あなたは、最高の『盾』の役割を、私に渡してくれた」
リリアーナは、力を失い疲弊しきっているリアンに、静かにそう告げた。彼女は、王としての威厳と、仲間たちの力を借りたこの新たな力を使い、次の段階へと進むことを決意した。
砂時計の移動
リリアーナ女王は、ただちに王城の王国兵に厳重な指示を出した。
「時の砂時計を、最も安全で、最も私が目を離すことのない場所に移動させる。秘密裏に、慎重に運べ」
彼女は、砂時計を、カミの探索から隠し、リアンが発見した地下から、彼女自身の居場所へと移すことを決めた。その場所こそ、彼女がクロード王子と共に過ごし、女王となる運命を受け入れた、最も愛しい思い出がある場所だった。
移動先は、フレイア王城の最も強固な防御層を持つ区画、クロード王子がかつて愛用していた、今は亡き者たちの遺品が収められた私的な部屋へと定められた。
巨大な砂時計が、王城の深い地下から、ゆっくりと、しかし着実に移動させられていく。その間、リリアーナは、集中力を途切れさせぬよう、常に砂時計に意識を接続し続けた。
孤独な女王の守護
数日後。
砂時計は、リリアーナが定めた**「愛しい思い出の場所」**に据え付けられた。
リリアーナ女王は、リアンの能力を使い、その部屋で砂時計の停止を維持し続けた。彼女の瞳は再び虚ろになり、目の下のクマは消えることがない。愛する者の死後、彼女が孤独に築き上げてきた新たな秩序は、この停止した砂時計の上に成り立っていた。
彼女の耳には、かつての盟友であるリアン・ヴァーレントが、ようやく解放された心身で療養に入ったという報告が入っていたが、リリアーナはもはや、それを喜ぶこともできなかった。
彼女は知っていた。
カミとの戦いは終わっていない。カミの混沌の核、鶴神千鶴が必ずこの砂時計を狙って現れることを。
リリアーナは、停止した砂時計と、愛しい者たちの遺品に囲まれながら、**「最後の敵」**を待ち続けた。
彼女は、愛する皆の力の全てを己の身に宿した、孤独な王として、自らを**「時の番人」**へと変貌させていた。




