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嫌われようと努力したのに、今日も攻略対象に追いかけられています。  作者: 限界まで足掻いた人生


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19話 「カミ」の血を引く者

クロード王子の言葉に、私の心は震えた。それは、この数年間、絶望の淵で私を縛り付けていた鎖を断ち切る、鋭い刃のようだった。私は、ただ愛されないことを願っていたのではない。愛する自由を、誰にも奪われたくないと、そう心の奥底で叫んでいたのだ。三柱の**「カミ」**が与えた「愛される」という運命は、私から「愛する」という選択肢を奪い、私自身の意志を無力化していた。


だが、クロード王子は、そんな私の本当の望みを見抜いていた。彼は、私の涙の理由を、この世界の理不尽さを、そして私が抱える孤独を、すべて理解しているかのように、静かに微笑んだ。


「リリアーナ……」


呆然と立ち尽くす私に、レオンハルト殿下が、不安げな声で呼びかける。彼の顔には、クロード王子への警戒心と、私の心情を理解できない戸惑いが入り混じっていた。


「殿下、わたくしは……」


私は、ようやく声を出した。喉の奥に張り付いていた感情が、ようやく言葉になって溢れ出す。


「わたくしは、愛されたいと、そう願ったことはありません。しかし、愛したいと、そう願ったことも、ありませんでした……」


クロード王子の言葉は、私の心を解き放つと同時に、新たな問いを投げかけてきた。私は、愛する自由を望む。だが、誰を愛したいのか?その答えを、私はまだ持っていなかった。


「リリアーナ嬢、焦る必要はありません。愛する勇気は、誰かとの出会いの中で、少しずつ育っていくものです」


クロード王子は、そう言って、優しく私の頭に手を置いた。その手は、冷たくも熱くもなく、ただただ穏やかだった。


「あなたが、あなたの意志で愛する人を見つけられるよう、私にできることがあれば、いつでも力になりましょう」


彼の言葉は、私への「愛」ではなかった。それは、純粋な「理解」であり、「希望」だった。彼は、私を所有しようとせず、ただ、私自身の力で運命を切り拓くことを、静かに見守ろうとしていた。


その瞬間、私の頭の中に、三柱の「カミ」の嘲笑が再び響き渡った。


『あらあら、なんともおもろない展開どすなぁ。まさか、あのおクロードはんが、あんたを「愛さへん」やなんて……』


『彼は、我らと同じ「カミ」の()を引いている。その力があれば、あなたを「愛する」などという安っぽい運命など、どうとでも書き換えられる……それでも、彼は書き換えなかった。なぜだと思いますか』


『あぁ、愛とか運命とか、そんなモン捨ててぇんだろ。じゃあよ……代わりに“死”をくれてやんよ。そっちのが似合ってんぜ』


「カミ」たちの声は、私を嘲り、脅迫し、私自身の選択を無力化しようと試みていた。しかし、その声は、もはや私を縛る鎖ではなかった。クロード王子が与えてくれた「希望」の光が、私の心を照らし、闇を払っていた。


私は、クロード王子に深く頭を下げた。


「クロード王子、ありがとうございます。わたくしは、あなたに救われました」


私は、今まで感じたことのない、安堵と希望に満ちた気持ちで、彼に感謝の言葉を伝えた。その言葉は、私の魂の奥底から湧き上がる、偽りのない真実だった。クロード王子は、何も言わずに微笑み、ただ静かに頷いた。


その日の午後、私は、レオンハルト殿下とクロード王子に別れを告げ、自分の屋敷へと戻った。屋敷へ向かう馬車の中で、私は、窓の外に広がる景色を、まるで初めて見るかのように見つめていた。今まで、私の世界は、愛されるという呪いによって、狭く、息苦しいものだった。しかし、今は違う。クロード王子が示してくれた、「愛を選ぶ自由」という道が、私の目の前に、無限に広がっていた。


私は、この世界を、この運命を、そして私自身を、もう一度、愛せるだろうか?

その答えは、まだわからない。しかし、私は、その答えを見つけるために、歩き出すことを決めた。



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