186話 諦観の中の報告者
最終決戦直後、クロード王子が逝ってから数日後。
フレイア王国の執務室。リリアーナ女王は、目の前のカイに問いかけていた。
「砂時計は…見つからないわね。私たちの命を懸けた戦いも、結局、彼らの遊び場で踊らされただけだとしたら、あまりにも虚しい」
カイは、静かにデータを解析していた。
「リリアーナ様。砂時計は、物理的な位置が定まらない概念的物体です。現在の技術で探すのは限界を超えています。絶望的な確率です」
その時、控えめなノックの後、秘書官のエミリア・ローウェルが入室してきた。彼女は温かいハーブティーをリリアーナのデスクにそっと置いた。
エミリアは、ハーブティーに手を伸ばそうとしたリリアーナを遮るように、決心した顔で口を開いた。
「あの…リリアーナ様。私のような者が、お二人の重要な会話に口を挟むことは無礼と存じますが…」
エミリアは、手元の通信記録を握りしめた。
「先ほど、ヴァーレント王国から極秘情報が届きました。二日ほど前…『高速で移動する砂時計らしきもの』が発見されたと」
リリアーナは、その言葉に、カップを取り落としそうになり、エミリアに食い入るように尋ねた。
「なんですって…?高速で移動…?それなら、なぜ今まで見つからなかったの?」
カイの人造の瞳もまた、解析不能な情報に、一瞬、激しく瞬いた。
エミリアは報告を続けた。
「はい。発見したのは、リアン・ヴァーレント様。ライオネル殿下の弟君で、彼の特殊な能力によって、その砂時計の動きが完全に停止されている状態だそうです」




