172話 外伝:混沌のルーツ (7) - 秩序の眼
遠い都の無関心
千代が外れ町で異国の旅人との秘密の取引を成功させ、多量の茶葉と金を手にしている頃、帝都・暁の中央に住む者たちは、その変化に気づいていなかった。
帝都の上層部、特に内務省の官僚たちは、自らが築いた**「究極の秩序」に絶対的な自信を持っていた。彼らにとって、鎖国下の異国人との交流や、外れ町の貧しい住民の行状などは、「取るに足らない、論理的に無視すべきノイズ」でしかなかった。彼らは、自らの合理的な管理体制が完璧**であると信じ込んでいた。
千代が築いた富は、彼らの監視の目の外側、すなわち**「論理の盲点」**で生まれたものだった。
秩序の眼と密告
しかし、千代の成功は、彼女自身の住む外れ町で、予測可能な結果を生んだ。住民たちの間に、嫉妬と不信感が広がったのだ。
「あの女は、一体どこから金銭を手に入れているのだ…」 「異国人と会っているのを見たぞ。鎖国令違反だ!」
この住民たちの卑俗な感情(嫉妬)が、帝都の秩序の眼を引き寄せた。
数日後、内務省の出先機関に、外れ町の住民からの**「密告」が届いた。内容は、『特定の女性が、正体不明の集団と、国内では流通しない物品を取引している』**というものだった。
内務省の官僚たちは、その情報を軽視したが、鎖国令という**「国家の絶対的な秩序」**の侵害の可能性だけは、無視できなかった。
派遣される監視の目
「馬鹿げている。しかし、秩序の崩壊を防ぐため、最小限のリソースを割く必要がある」
内務省の幹部は、そう判断し、極めて優秀な特務調査員を、千代のいる外れ町へと派遣することを決定した。
派遣されたのは、論理的解析と諜報活動に長けた、冷徹な監視の専門家だった。彼らの目的は、千代という個人の動向を調べることではない。**「鎖国令の秩序」が、どこまで「混沌」**によって侵されているかを、合理的に計測することだった。




