164話 友の愛と運命の拘束
アザトースに憑依されたカイの肉体は、究極の知性と冷徹な論理を宿す、完璧な敵としてリリアーナ女王の前に立ちはだかった。彼女が持つ知識と身体能力は、今やアザトースの論理によって最大限に駆動されている。
「リリアーナ。君の運命の壁を破壊する前に、君の最後の希望を論理的に排除する」
カイ(アザトース)の声は、冷徹な論理を保ちながらも、リリアーナ女王へと迫った。
究極の拘束魔術
リリアーナ女王は、千鶴の杖の破片を握りしめ、アザトースの魂を引き剥がそうと試みたが、その論理的な障壁によって阻まれていた。
しかし、その時、カイ(アザトース)の瞳の奥で、微かな抵抗の光が瞬いた。
「リ…リリアーナ様…」
一瞬だけ、アザトースの冷徹な声が途切れ、カイの、苦痛に満ちた声が聞こえた。それは、アザトースの論理支配の隙間から、103号の魂が必死に送り出した最後の反逆だった。
「このままでは…アザトースの究極の道具に…なる…!」
カイの肉体は、抵抗と苦痛で激しく痙攣した。そして、彼女の体から、セバスチャンとの訓練で覚えた非効率な魔力――人体の結合と拘束の知識――が、自らの肉体めがけて放出された。
「私は…この肉体を、絶対にアザトースに渡さない…!」
カイは、その非合理な魔力で、アザトースの魂と、ノエマ(零号)の肉体の結合を強引に固定し始めた。この魔術は、アザトースが自らの意思で肉体を捨てることも、リリアーナ女王が外部から魂を引き剥がすことも不可能にする、究極の心中の術だった。
友の最後の願い
カイの体は、強大な魔力によって激しく燃え上がり、論理と感情の衝突によって崩壊寸前となった。
「カイ!やめなさい!その術は、あなた自身を焼き尽くす!」
リリアーナ女王が叫ぶと、カイは涙を流しながら、その燃える瞳でリリアーナ女王を見据えた。彼女の魂は、愛と運命のために、究極の犠牲を選んだのだ。
「リリアーナ様…お願いです。アザトースの目的は、この肉体を使い、運命の壁を破壊することだ…その目的を…完遂させる前に…」
カイは、渾身の力を込めて、リリアーナ女王に絶望的な命令を突きつけた。
「私ごと…殺してくれ。 この肉体に、アザトースの魂は永遠に縛り付けた!これが、ゼロへの愛と、人類の運命を守る、最後の合理的な選択だ!」
友の悲痛な願いは、リリアーナ女王の心を激しく引き裂いた。愛する者を全て失った彼女に、最後の仲間をその手にかけるという、究極の非情が迫られた。




