149話 混沌の糸と歴史の歪み
リリアーナ女王とカイは、砂塵の荒野へと続く古道をひたすら進んでいた。彼女たちの意識は、ひたすらアザトースの論理的な追跡をかわし、最終兵器開発要塞への潜入経路を探すことに集中していた。しかし、この世界の運命は、彼女たちの知らないところで、もう一柱のカミの糸によって複雑に絡み合っていた。
北方の監視:過去の因縁
大陸北方、ヴォルク少将の司令室。解析データが示す千鶴の混沌の波動は、さらに不気味なパターンを描き始めていた。
「少将!新たな報告です!東部海域で、奇妙な**『嵐の発生』**が確認されました!通常ではありえない規模と速度で発達しています!」
オペレーターの報告に、ヴォルク少将は、自身の過去の記憶を呼び覚まされたかのように、顔色を変えた。
「嵐…まさか…**『時の海賊』**か…!」
ヴォルク少将の脳裏に蘇ったのは、20年前の記憶だった。まだ若き士官だった彼が、当時の武神と共に出撃し、時の境界の歪みから現れた、予測不能な力を持つ海賊団と遭遇した事件だ。その海賊団は、**『時の導き手』**の一族に連なる者を執拗に狙い、数々の混沌を引き起こした。その船団の旗には、三つの渦巻き模様が描かれていた。それは、千鶴の混沌の象徴だった。
「千鶴め…やはり、ここへきて**『過去の遺物』**を再利用するつもりか…!」
ヴォルク少将は、かつての因縁を確信した。千鶴は、常に「物語」を弄ぶ。彼女は、過去に介入することで生まれた歴史の歪みを、新たな混沌の舞台装置として活用する傾向があった。
「あの海賊団は、『時の導き手』の血を引く者たちを、**『運命の糸』と称して捕らえていた。彼女は、リリアーナ女王の『時の力』**に目をつけ、彼女を直接狙うことを選んだと見て間違いない!」
ヴォルク少将の指示は、一転して東部海域の調査へと向けられた。彼は、リリアーナ女王を直接救うことはできないが、千鶴が新たな混沌の種を蒔くことを阻止しようとしていたのだ。
女王とカミの誤算:二つの脅威
リリアーナ女王とカイは、砂塵の荒野の厳しい環境を進んでいた。彼女たちの全神経は、アザトースの論理的な罠を回避し、要塞へ潜入することに集中していた。
「この先、大皇国の**『無人巡回兵器』**の巡回ルートです。カイ、予測して」
「了解です、リリアーナ様。彼らの行動パターンは最適化された秩序。この間隔で…」
彼女たちは、目の前の秩序の脅威に対処することに忙殺されていた。
彼女たちは、千鶴の混沌が、既に自分たちの背後に迫り、過去の因縁が再び動き出していることなど、知る由もなかった。
千鶴は、アザトースとの最終決着の舞台を、「運命の壁」の外側に設定し、**リリアーナ女王という「時の導き手」を新たな混沌の中心に据えようとしていた。彼女は、『時の海賊』**という、かつてリリアーナ女王の祖先が関わった因縁を再利用し、予測不能な物語の展開を企んでいたのだ。




