145話 運命の墓標と孤独な女王の決意
セバスチャンの肉体が消滅し、クロード王子が逝ってから、五年の月日が流れていた。
私は、厳重な警護を伴い、王城の静かな一角にある、セバスチャンの墓を訪れていた。そこには、彼の肉体はない。ただ、享年50歳という年齢と、**「執事としての誇りと、自由な魂」**を象徴する空の石碑が立っている。
私の隣には、カイ(103号)が立っていた。彼女は、私の護衛であり、唯一の理解者、そして新しい仲間だった。
墓前での独白
私は、石碑に、そっと白い花を供えた。
「セバスチャン…、あなたが零号として、あんな非人道的な訓練を始めたのが10歳の頃だったわね。それから…40年が経って、あなたは、私たちのためにその命を捧げた」
私は、静かに語り始めた。カイは、ただ黙って私の言葉を聞いている。
「クロード王子と共に、この世界を救ったあなたの人生は、あまりにも短く、そして悲劇的だった。五年が経っても、クロード王子とあなたの喪失感は、癒えることがないわ」
私は、目を閉じた。あの時、アザトースの刃が私を貫いたときの、クロード王子の絶望した顔が、瞼の裏に焼き付いている。
カイの決意と愛の独白
その時、隣にいたカイが、静かに口を開いた。彼女の声には、以前の冷徹さに加え、深い愛情と、それを乗り越えようとする強い意志が込められていた。
「リリアーナ様。ゼロ(セバスチャン)の命は、無駄ではありません。彼は、40年の苦しみの果てに、人間としての自由を勝ち取りました。そして…」
カイは、石碑を見つめ、静かに、しかし決然と言葉を続けた。
「私は、あの人に**『好きだった』と告げた。あの人は、その非合理的な愛**を、命を懸けて守ってくれた。その事実が、私にとって、生きる理由です」
彼女は、自身の感情を認めたことで、瞳を潤ませた。
「あの人の死を乗り越えるのは、辛い。この痛みは、一生消えないでしょう。でも、ゼロは、私に**『生きろ』と託した。だから、私は立ち止まれない。この痛みごと、彼の運命の証**として、私は前に進みます」
カイは、私の肩を力強く握った。
「私たちは、ゼロの意志を継ぎ、クロード王子が愛した運命を、完全に安定させる義務があります。ライオネルとレオンハルトを、アザトースの新たな秩序に組み込ませるわけにはいかない」
私は、カイの献身的な愛と、使命感に感銘を受けた。
「そうね、カイ。アザトースがどこへ逃げようと、私たちには運命を切り開く力が残っている。彼が奪った運命の核、すなわちライオネル殿下とレオンハルト殿下を取り戻し、この世界を真の自由へと導く」
私は、愛する者の死と孤独を乗り越え、運命を背負う女王として、カミの最後の脅威に立ち向かう。
「セバスチャン。見ていて。今度こそ、誰の命も無駄にしない。これが、私自身の運命よ」




