139話 知識の干渉と盾の選択
研究所全体を覆い尽くした知識の奔流は、アザトースの論理とは相容れない**「不確定な情報」**の嵐だった。
ノエマは、自身の完璧な予測論理が崩壊したことに激しく動揺し、身体の動きが一時的に停止した。彼女の瞳は、計算の対象を見失い、虚空をさまよっていた。
「今だ、ノエマ!お前の論理が人間性というバグを処理している間に、俺の番だ!」
クロード王子は、剣と杖の破片を構え、ノエマに向かって飛び込んだ。彼は、ノエマの論理が停止している一瞬を、最も合理的な攻撃機会と判断した。
剣と感情の衝突
ノエマの体は、セバスチャンの戦闘パターンから外れたクロード王子の攻撃に、正確に対応できなかった。クロード王子は、憎しみを捨てたことで得た自由な動きと、武神の血の残滓を融合させ、ノエマの防御の隙を突き、彼女の人造の装甲を深々と切り裂いた。
「グッ…!」
ノエマの口から、初めて苦痛の声が漏れた。彼女の完璧な肉体に、決定的な傷が刻まれたのだ。
「あなたの憎しみは、もう俺には届かない。お前が憎むべきは、人間の自由な意志ではない。カミの支配だ!」
クロード王子の剣は、ノエマの憎しみの根源に、愛と運命の楔を打ち込もうとしていた。
不滅の盾の選択
その間、『論理の剣』ライオネル殿下は、リリアーナの言葉と知識の奔流によって、論理回路が完全にオーバーヒートし、その場で頭を抱えて苦しんでいた。
しかし、もう一人、『不滅の盾』レオンハルト殿下は、違った。彼は、アザトースの論理によって究極の防御という使命を帯びていたが、彼の使命の根幹には、亡き本物のリリアーナへの献身的な愛があった。
彼は、知識の奔流が最も激しい場所、つまりプロトタイプの演算ユニットへと、ゆっくりと歩みを進めた。
「リリアーナ様…」
レオンハルト殿下は、心の中で静かに誓った。彼の使命は、アザトースの論理ではなく、愛した人が守ろうとした運命を守ることへと再定義された。
彼は、倒れて苦しむライオネル殿下に近づくと、その剣を弾き飛ばし、自らの体をライオネル殿下の前に滑り込ませた。
「ライオネル。お前は、秩序のために苦しんでいる。だが、愛するリリアーナ様が望んだ運命こそが、真の秩序だ」
そして、彼は、ライオネル殿下を背後に庇い、ノエマとの最終決戦に挑むクロード王子と、儀式の仕上げを行う私を、その体で守り始めた。




