138話 知識の奔流と友情の盲点
地下の中央実験室は、修羅場と化した。
ノエマの論理的な猛攻がクロード王子を翻弄する中、『論理の剣』ライオネル殿下が、私めがけて突進してくる。彼の剣は、秩序の回復という論理的な使命を帯び、一切の容赦がない。
「リリアーナ様!儀式を中止しろ!それが最も合理的な選択だ!」
ライオネル殿下の速度は、私が回避できる限界を超えていた。
「させるか!」
クロード王子は、ノエマの攻撃を紙一重で回避し、即座に私のもとへ駆け寄ろうとした。しかし、ノエマは彼の思考を予測し、彼の進路に瓦礫を蹴り上げ、再び論理の壁を築いた。
「あなたの行動は、予測通り。儀式の中止こそが、秩序の維持に繋がります」
究極の非合理の叫び
絶体絶命の瞬間、私は、演算ユニットに押し当てた千鶴の杖の破片に、自身の運命の意志の全てを注ぎ込んだ。
「ライオネル殿下!」
私は、剣の直撃を覚悟しながら、彼の瞳めがけて、論理に存在しない情報を叫んだ。
「あなたは、クロード王子の妹の命を救うために、医者になる夢を抱いていたはずです!その知識は、あなたの論理に、今も存在しているのね!」
私が突きつけたのは、アザトースが最も隠したい過去、すなわち、クロード王子の消去された幸福な記憶から派生した、ライオネルの個人的な夢という、究極の非合理だった。
その言葉は、ライオネル殿下の論理回路に、致命的なエラーを引き起こした。
「な…なにを…!そのデータは、論理的に存在しない!俺の使命は、秩序の維持…だが、夢…?」
ライオネル殿下の剣は、私の目の前で、数ミリの距離で停止した。彼の瞳は、論理的な計算と、微かな人間の記憶との間で激しく揺れ動いていた。
知識の奔流
その一瞬の停止が、私たちの命を救った。
私が押し当てた千鶴の杖の破片から、青い光が噴き出した。アザトースが否定した初期の、不安定な知識が、ついに覚醒したのだ。
「…起動完了。知識プロトタイプ、作動」
知識の奔流は、アザトースの論理とは全く異なる、不確定性に満ちた情報として、演算室全体を覆い尽くした。
「成功だ、リリアーナ!」クロード王子が歓喜の声を上げる。
この知識の奔流は、ノエマの予測を、そしてライオネル殿下の論理を、一時的に完全に混乱させた。ノエマの動きは乱れ、ライオネル殿下は頭を抱え、苦悶の表情を浮かべた。
「ノエマ!儀式の最終段階だ!あの論理の剣を抑えろ!」
クロード王子は、ライオネル殿下の苦しむ姿に心を痛めながらも、使命を優先した




