133話 知識の連鎖を断つ場所
ジョルジュたちの血塗られた犠牲によって、クロード王子と私は、再び時の特異点の混沌の中へと逃げ込んだ。私たちは、アザトースの論理が強制的に修正した過去という、最も危険な戦場を離脱したのだ。
光の渦が収束し、私たちが降り立った場所は、再び時の境界の空間だった。巨大な砂時計が微かに光を放ち、周囲は静謐に包まれている。
クロード王子は、私の手を握りしめながら、荒い息を整えた。彼の顔は、友と忠臣の惨殺を目の当たりにした絶望と、湧き上がる怒りに歪んでいた。
「ライオネルも…レオンハルトも…ジョルジュまで…!全て、アザトースの…論理という名の、支配だ!」
「クロード王子…落ち着いて」私は、彼の頬に触れた。「彼らの犠牲は、私たちに時間を与えてくれたわ。この時間で、アザトースの論理的な支配を打ち破る方法を見つけなければ」
最後の希望:セバスチャンの情報
クロード王子は、深呼吸をし、知神の知識を駆使して状況を解析し始めた。
「アザトースは、今、論理の剣と不滅の盾を、現実世界の人類の意識の中心に送り込んでいるはずだ。彼らは、人間が持つ自由な意志を、秩序の名のもとに管理しようとするだろう」
私たちの目の前には、依然として、アザトースの論理的支配が及ばない、千鶴の混沌の力が残した運命の壁の抜け穴が、揺らめいている。
「この抜け穴を利用して、アザトースが次に干渉する場所を予測しなければ…」
その時、セバスチャンが最後に東條から得た**「アザトースの論理の致命的な盲点」**という情報が、クロード王子の脳裏にフラッシュバックした。
「そうだ…セバスチャン…!」
クロード王子は、私を見て、その瞳に希望の光を灯した。
「セバスチャンは、アザトースの論理が、**論理的に完成する以前の『失敗の記録』**には対応できないことを知っていた。そして、彼は、その情報を持ったまま、俺たちを逃がした」
究極の非合理への挑戦
クロード王子は、千鶴の杖の破片を、自身の武神の力で無理やり再構築し、空間に小さな座標を投影した。
「次の戦場は、アザトースの支配が最も強固な場所でなければならない。しかし、その場所は、彼の論理の根幹に関わる、究極の非合理を内包していなければならない」
彼が指差した場所は、驚くべきことに、**大皇国の帝都・暁**だった。
「帝都に戻るのですか!?あそこは、アザトースが最も秩序を築いた場所でしょう!」
「そうだ。だが、セバスチャンが言っていた。この帝都は、人体強化という非人道的な裏側の上に、合理的な秩序が成り立っている。そして、その非人道性こそが、アザトースが**最も隠したい『非合理な起源』**だ」
クロード王子は、決意を固めた。
「俺たちは、帝都の地下、旧陸軍中央研究所へ戻る。そこで、セバスチャンの最後の情報、**アザトースの論理の『始まりの矛盾』**を解放する。それが、知識の鎖を断ち切る、唯一の方法だ!」




