132話 託された希望と血塗られた逃走
アザトースの論理によって再編された、『論理の剣』ライオネル、『不滅の盾』レオンハルト、そして二人の零号。彼らが放つ冷たい殺気に、クロード王子は激しく震えた。愛と友情が、憎悪を超えた先にあったはずの彼らが、今、カミの道具として立ち塞がっている。
「ライオネル…レオンハルト…!お前たちまで…!」
クロード王子は、絶望の淵に立たされながらも、剣を構えた。武神の血が、その理不尽な運命に抗おうと、彼の全身で脈打つ。
「クロード王子!待って!」
私が、彼の腕を掴んだ。
「このままでは、全滅してしまうわ!彼らは、私たちを殺すことに迷いがない!千鶴の杖も失って、私たちに勝機はないわ!」
私の言葉は、冷静な状況分析だった。千鶴の杖を失った今、アザトースの眷属と化した最強の仲間たちと、真正面から戦うことは、自殺行為に等しい。
「だが…リリアーナ!このままでは、アザトースの思い通りだ!」
クロード王子は、悲痛な叫びを上げた。その時、再び空の青い光が強まり、運命の改変がさらに進行しようとしていた。
血塗られた援軍
その瞬間、庭園の遠くから、数人の人影が、猛然とこちらへ駆けつけてきた。
「クロード殿下!リリアーナ様!ご無事ですか!」
声の主は、白髪の老執事、ジョルジュだった。彼に続き、フレイア王国の兵士たちが、アザトースの干渉を免れた僅かながらも、決死の覚悟で突入してきたのだ。彼らは、レオンハルト殿下から、クロード王子が過去に飛んだことを、かろうじて聞き出していた。
「ジョルジュ!なぜここに!」クロード王子は驚愕した。
「殿下の危機とあれば、この老骨も、王家の盾とならせていただきます!」
ジョルジュは、老いた体に鞭打ち、クロード王子と私を庇うように、ライオネル殿下とレオンハルト殿下の前に立ちはだかった。
しかし、アザトースの論理で再編成された彼らは、もはや情を持たない。
『論理の剣』ライオネルが、無感情な瞳でジョルジュを見据えた。
「無意味な抵抗だ。個の感情は、秩序の妨げとなる」
ライオネル殿下が一閃する。ジョルジュは、長年の経験でその一撃を受け止めようとするが、論理に裏打ちされた剣技は、彼のかつての友人をも凌駕していた。
ドォォォン!!
ジョルジュの体が、一瞬にして肉塊となり、地面に叩きつけられた。その血しぶきが、クロード王子と私の頬を濡らした。
「ジョルジュ!」クロード王子が、悲鳴を上げた。
「殿下!リリアーナ様!逃げてくださりませ!」
残されたフレイア兵たちが、次々とライオネル殿下とレオンハルト殿下に襲いかかるが、彼らは、最適な論理の元に動く機械と化しており、兵士たちは、瞬く間に血肉の破片と化していった。
『不滅の盾』レオンハルトが、無表情に兵士たちを薙ぎ払いながら、私たちに近づいてくる。彼の瞳には、かつての愛と友情の輝きは、微塵も残されていなかった。
「クロード王子!この場所から離れるわ!」




