130話 秩序の論理と杖の崩壊
クロード王子とリリアーナは、運命の原点である過去の庭園で、全存在を賭けた最終儀式を進行させていた。彼らの愛と運命の意志が、混沌の渦を介して過去の幸福を「揺るぎない歴史」として固定しようとしていた。
空の青い光、すなわち知神アザトースの干渉は、私たちの強大な意志と千鶴の混沌によって、激しいノイズを上げ、撤退寸前だった。
「な…に…!これ以上の干渉は、自己の論理の崩壊を招く…!」
アザトースの知性が、この矛盾に直面し、撤退を余儀なくされようとしていた。人類の勝利は、目前だった。
知神の最後の合理的な一手
しかし、アザトースは、自らの知性の崩壊を許すカミではなかった。彼は、自らが干渉できない領域で、最も合理的で、最も非情な一手を打った。
空間の歪みの中、青い光の粒子が凝集し、一人の人物が具現化した。それは、カミの眷属の中でも、**「秩序の執行者」**と呼ばれる、無表情な男だった。彼は、アザトースの論理のみに支配され、感情を一切持たない。
執行者は、クロード王子やリリアーナと戦うことなく、儀式の核、すなわちリリアーナが持つ千鶴の杖めがけて、一直線に飛び込んだ。
「リリアーナ!危ない!」クロード王子が叫んだ。
私は、執行者の存在を予期していなかった。彼は、私たちを論理的に排除するのではなく、儀式の構成要素を破壊することを選んだのだ。
「混沌の触媒は、ここで消去する」
執行者の手から放たれた、純粋な秩序の青いエネルギーが、千鶴の杖に直撃した。
ガアァァン!!
硬質な破壊音が響き、千鶴の杖は、音を立てて粉々に砕け散った。
儀式の失敗と過去の危機
千鶴の杖が砕けた瞬間、リリアーナが作り出していた混沌の渦は、一瞬で消滅した。混沌のエネルギーを失ったことで、運命の壁を固定する力も失われ、儀式は、未完成のまま強制終了された。
クロード王子は、剣を杖から抜き、執行者を打ち払おうとしたが、執行者は目的を達成すると同時に、青い光となって空間の歪みへと消えていった。
私たちは、茫然自失となった。
「失敗した…混沌の力が…」
私の手には、千鶴の杖の破片だけが残されていた。
空の青い光――アザトースの干渉は、撤退から、再開へと転換した。
「合理的だ。不確定要素は、その源泉を破壊すべきだ。クロード、君の過去の幸福は、私の論理によって修正される」
アザトースの冷徹な宣告が響き渡った。




