125話 運命の壁の抜け穴と二柱の対立
運命の壁の構築が完了した瞬間、中央演算室は、耳鳴りがするほどの静寂に包まれた。時の特異点の激しい衝突は終わり、空間は、私たち二人が望んだ**「人間の自由な運命」**という安定した状態へと移行した。
クロード王子と私は、杖と剣をゆっくりと下ろした。私たちは、カミの支配を打ち破ったという、確かな勝利を掴んだはずだった。
「終わった…カミの支配は、永遠に終わったんだ、リリアーナ」
クロード王子は、私を抱きしめた。
究極の論理と混沌の対立
しかし、その安堵は、長く続かなかった。封印の光が収束した壁の向こう側、カミの領域では、鶴神千鶴と知神アザトースが、互いに異なる反応を示していた。
「チッ、やりおったな、人間ども!究極の不確定性で、わてらを壁の向こうに閉じ込めよった!」
千鶴は、悔しさの裏で、興奮を隠せない。彼女にとって、この**「人間の独立」**という結末は、究極の物語の始まりを意味していた。
「しかし、千鶴。君の混沌の力は、私の論理と融合し、一つの不確定な抜け穴を生み出した」
アザトースの声は、冷たい勝利を予感させるものだった。
「運命の壁は、不完全だ。君の混沌の性質上、その壁には『予測不能な浸透性』が組み込まれている。我々は、まだ『最終手段』をもって、この世界に干渉できる」
千鶴は、アザトースの言葉に驚愕し、すぐに歓喜へと変わった。
「抜け穴やて!?フフフ…さすが知神!あんたの論理の完璧さは、わての混沌を裏切らへんかったんやな!」
「静粛に。この抜け穴は、極めて不安定であり、二柱が同時に利用することは不可能だ。また、頻繁な干渉は、壁を完全に安定させ、この機会を失うことになる」
アザトースは、冷徹な論理で、千鶴を威圧した。
「故に、封印されたこの世界に干渉する最初の権利は、秩序の回復を望む、私にある。千鶴、君は、その抜け穴を、私が修復を終えるまで守るがいい」
「ふざけんな、知神!わてが、あんたの秩序の修復を、黙って見てるわけないやろ!その抜け穴は、混沌の始まりや!わてが先に、この物語を究極の不確定な展開にしてやる!」
カミの領域では、運命の壁という新たな障壁を巡り、秩序のアザトースと混沌の千鶴が、激しく対立する新たな局面を迎えていた。
執事の静寂と最後の伝言
クロード王子と私は、カミたちの対立の波動を感じ取り、警戒心を強めた。その波動は、封印が不完全であることを示していた。
私たちは、急いでセバスチャンのもとへ向かった。
彼は、メインコンソールに体を預けたまま、その場に静かに佇んでいた。彼の体から流れていた論理の光は消え、その顔は安らかだった。
「セバスチャン!」
クロード王子が彼の名を叫んだ。
「…クロード王子」
セバスチャンは、ゆっくりと目を開けた。その瞳には、かつての冷徹な零号の知性ではなく、深い満足感が宿っていた。
「私の使命は…全て完了いたしました。レオンハルト殿下と亡き友人たちの運命は…報われました」
彼は、私に微笑みかけ、最後の言葉を、クロード王子に託した。
「アザトースは…論理の抜け穴を利用するでしょう。王子。彼の最終手段は、**『運命の根幹』**を標的とします。彼の論理の最優先事項を、逆手に取るのです…」
その言葉を最後に、セバスチャンの魂は、過去の呪縛から完全に解放され、彼の肉体は、静かに息を引き取った。




