124話 運命の融合と零号の賭け
リリアーナが千鶴の杖をクロード王子の剣に重ね、運命の壁の仕上げを開始した瞬間、中央演算室は、激しい光とエネルギーの奔流に包まれた。
青い論理の光(アザトースの知識)と、黒い混沌の靄(千鶴の力)、そしてレオンハルト殿下の愛の犠牲から生まれた**純粋な光(運命の楔)**が、全て一点で融合し始めた。
究極の憎悪、ノエマの覚醒
クロード王子の予測不能な笑顔によって動きを止められていたノエマは、その一瞬のフリーズから回復した。彼女の論理回路は、「敵意なき愛」というデータを処理不能なバグとして認識したが、そのバグを破壊する新たな行動原理を見出した。
「…あなたの笑顔は、非効率な希望だ。それは、私の存在意義を否定する」
ノエマの瞳に、再び冷たい殺意が宿った。彼女は、クロード王子が愛と運命の力で封印を完了させようとしていることを理解し、儀式の核心を狙って猛攻を仕掛けた。
「零号!ノエマが来るぞ!」
クロード王子は、私との手の連携を保ちながら、セバスチャンに警告した。
セバスチャンの最後の機能
セバスチャンは、メインコンソールに自身を接続させたまま、その場から動かなかった。彼の肉体には、アザトースの失敗の知識、東條の懺悔、そして亡き友との誓いが流れている。
「ノエマ。あなたの憎しみは、私自身の過去の影だ。その影は、ここで消去します」
セバスチャンは、失った左腕の痛みを無視し、右手の力を、メインコンソール全体へと解放した。彼の体から放たれたエネルギーは、アザトースの論理の残滓を一時的に活性化させ、演算室全体を論理的な防御グリッドで覆った。
「これは…アザトースの究極の秩序!なぜ、あなたがそれを…!」
ノエマは、目の前に現れた、自身の行動を完全に予測する論理の壁に、初めて焦りを見せた。
「これは、あなたの設計者の論理と、私という失敗作の非論理的な意志が融合した、究極の矛盾です。あなたの憎悪の力は、この矛盾を破壊できません」
セバスチャンは、ノエマの足止めに、自身の全てを賭けた。論理のグリッドを維持するために、彼の肉体は激しく消耗していく。
運命の完成
ノエマがセバスチャンの論理の壁に釘付けになっている間、クロード王子と私の儀式は、最終段階を迎えていた。
「リリアーナ!もうすぐだ!俺たちの運命の意志を全て注ぎ込め!」
「ええ!」
私たちは、互いの魂の全てを杖と剣に集中させた。レオンハルト殿下の愛、ノエマの憎悪、千鶴の混沌、アザトースの論理――この世界に存在した全ての力が、私たち二人の人間の意志によって、一つの永遠の運命の壁へと固定されていく。
そして、巨大な光が弾け、時の特異点は、静謐な安定へと移行した。
運命の壁は、完成した。




