123話 予測不能な盾と儀式
セバスチャンは、失った左腕の断端に、残された零号の知識と、研究所から得た初期の技術を駆使して、瞬時に応急の止血と神経の封鎖を施した。彼の冷静な対処により、命に別状はない。
「クロード王子。儀式の成功確率を高めるため、私のこの**『非効率な肉体』**を、演算室の制御盤と直接接続させます」
セバスチャンは、そう言うと、傷口を気にすることなく、自身の体に流れる知識と生命エネルギーを、メインコンソールへと繋ぎ始めた。
「俺の役割は、ノエマの予測を外すこと」
クロード王子は、剣を抜き、演算室の中央へと進み出た。彼は、憎しみを捨てた今、ノエマの**「完璧な憎悪」を打ち破る、「不確定な愛」**という武器を持っていた。
ノエマの帰還
儀式の中核となる演算装置に、クロード王子が千鶴の杖を突き立てた、その瞬間――
地下の通路から、冷たい殺意の波動が流れ込んできた。ノエマだ。
彼女は、セバスチャンの治療の時間を許さず、儀式の完了を阻止するため、最短時間で戻ってきた。
「零号。やはりあなたは、裏切り者ね。その肉体を、非効率な道具として利用するとは」
ノエマは、感情のない瞳で、クロード王子とセバスチャンを見つめた。彼女の憎しみは、人間の自由な運命そのものに向けられていた。
「ノエマ。お前の憎しみは、武神の残滓に過ぎない。お前の運命は、もう終わっている」
クロード王子は、剣を構えた。
「終わらない。この世界は、人間の感情というバグによって滅ぶべきだ。私の憎しみこそ、真の秩序だ」
ノエマは、セバスチャンの全ての戦闘パターンを予測した動きで、クロード王子めがけて襲いかかった。
予測の破綻
クロード王子は、剣を振り上げなかった。彼は、ノエマの攻撃を受け止めるという、予測外の行動に出た。
「な…に…!?」
ノエマの拳が、クロード王子の剣に激突する。彼女の力は、クロード王子の体を大きく後退させたが、彼は耐えた。
「俺は、お前の予測を全て裏切る。お前が俺の次の行動を合理的に計算できるなら、計算してみろ!」
クロード王子は、剣の構えを捨て、無防備な笑顔を浮かべた。その笑顔は、ノエマの憎悪が最も理解できない、**純粋な「愛の表現」**だった。
ノエマの動きが一瞬、停止した。彼女の論理回路が、**「敵意なき笑顔」**というデータを処理できずにフリーズしたのだ。
「リリアーナ!今だ!」
クロード王子の叫びが響いた。
私は、千鶴の杖を、演算装置の中央に突き立てられたクロード王子の剣の柄に重ね合わせた。
「運命の意志よ!愛と犠牲の力を、永遠の楔として打ち込め!」




