118話 監獄の激突と二つの零号
地下の輸送口から響く銃声と金属音は、敵勢力の到達を告げていた。クロード王子は剣を抜き、セバスチャンは身体に零号の力を集中させ、リリアーナは千鶴の杖を構えた。
「クロード王子。来ました。敵は二手に分かれています」
セバスチャンは、人造の知性で正確に敵の配置を読み取った。
「一つは、大皇国軍。彼らはアザトースの支配下にあり、秩序の回復を目指しています。もう一つは、ノエマとミサキの、混沌の勢力です。彼らは、儀式の妨害と、この知識のプロトタイプの破壊を目指すでしょう」
「セバスチャン。お前は、ノエマを頼む。お前の過去の清算は、この儀式の成功に不可欠だ」
クロード王子は、セバスチャンの肩に手を置いた。
「承知いたしました。零号としての私の最後の任務です」
ゼロ対ゼロ
銃声が止み、地下の通路から、まず大皇国軍の先鋭部隊が姿を現した。彼らは、強化兵ではないものの、規律正しい動きで、演算室へと侵入してきた。
「王族と異物は動くな!陸軍省の命令だ!秩序を乱すものは排除する!」
クロード王子は、迷いなく剣を振るった。
「お前たちが信じる秩序は、カミの傲慢だ!」
クロード王子と軍部が激突した、その瞬間、中央演算室の別の入口、かつてセバスチャンが脱走に使ったと思われる非常通路から、二つの禍々しい影が飛び込んできた。
ノエマとミサキだ。
「逃がさないわよ、ユナ!」
ミサキは、嫉妬に歪んだ顔で私めがけて時の力を放った。
「あなたの遊戯は終わりだ、ミサキ!」
私は千鶴の杖を振り、ミサキの時の力を混沌のエネルギーで打ち消した。
そして、セバスチャンとノエマ――二人の零号が、正面から向かい合った。
ノエマの体には、セバスチャンと同じ黒い血管の痕が走っている。その瞳は、憎しみと虚無で満たされていた。
「零号。あなたは、失敗作でありながら、人間に成り下がった。究極の道具としての存在意義を否定した裏切り者だ」
ノエマの声は、セバスチャンの過去の記憶をそのまま突きつけるようだった。
「ノエマ。俺は、道具ではない。人間として生きることを選んだ」
セバスチャンは、ノエマの非人道的な完全性に対抗するため、彼の肉体が持つ零号の技術と、彼が培った執事としての人間性の全てを込めて、拳を構えた。
「この力は、愛と友情のために使う。お前が持つ憎悪のためではない!」
二人の零号の戦いは、単なる戦闘ではない。それは、**人間性と非人間的な合理性**という、セバスチャン自身の運命を賭けた、最後の内戦だった。




