112話 血の道と悪意の模倣体
クロード王子、リリアーナ、セバスチャンの三人は、雪と氷に覆われた氷結山脈の麓で、異様な静寂が広がる集落の入口に差し掛かった。そこで目にしたのは、武神の暴力とは異なる、効率的で病的な殺戮の痕跡だった。
虐殺の痕跡と因縁の再会
「この地面の抉れ方、この力…武神の痕跡ではない」
クロード王子が分析する中、セバスチャンが瓦礫の側で跪いた。
「クロード王子。この動作パターンは、人体強化技術のプロトタイプ。私の過去の戦闘記録と完全に一致します」
セバスチャンの瞳には、自らの過去の罪と向き合う覚悟が宿っていた。ノエマ――千鶴が送り込んだ新たな零号による、彼の過去の悲劇の模倣だった。
その時、集落の奥、古代の祭壇へと続く唯一の道で、待ち伏せていた敵と遭遇した。
「遅いですよ、ユナ」
そこに立っていたのは、本物のリリアーナの姿をしたミサキだった。彼女の瞳には、私への個人的な嫉妬と、肉体が持つ時の力への陶酔が宿っていた。
「ミサキ!どうしてこんなことを!」
私が親友の名を叫ぶと、ミサキは嗤った。
「フフフ…私は、あなたの最愛の人と同じ顔を持つ、新しい主役よ、クロード」
ミサキの背後には、ノエマによる虐殺の惨状が広がっていた。ノエマの体は、セバスチャンの予備肉体そのものであり、その存在はセバスチャンの最も忌まわしい過去の具現化だった。
二重の脅威と運命の逃走
「セバスチャン!ノエマの排除が最優先です。ミサキの肉体に宿る**魂の記録(本物のリリアーナの痕跡)**は、極力傷つけるな!」
クロード王子の指示が飛ぶと同時に、戦闘が始まった。
ノエマは、セバスチャンの全ての動きを予測し、完璧な殺意の奔流を放った。二人の零号が、運命の肯定と愛の否定という相反する目的のために激突する。
「零号、あなたも結局は人間の感情に支配された失敗作ね」
ノエマの冷徹な声がセバスチャンの精神を抉るが、セバスチャンは友の誓いを胸に、ノエマの動きを封じることに専念した。
その間、ミサキは私とクロード王子を狙う。私は千鶴の杖を使い、ミサキの魂にユナとしての過去の記憶と論理的な矛盾を叩きつけた。
「ミサキ!あなたの優位は、偽りの器の上にある!」
「うるさい!」
ミサキは、激しい嫉妬と混乱に駆られた。彼女の体から、制御を失った時の力が暴走し、周囲の空間を不規則に歪ませた。彼女の力が不安定であることに、クロード王子は勝機を見出した。
「セバスチャン!ノエマの右側面、0.5秒の隙を突け!リリアーナ、その隙に、時空の歪みを最大化するんだ!」
セバスチャンは、自身の肉体の限界を超えた動きでノエマを牽制し、その一瞬の隙に、私は千鶴の杖の混沌の力を、ミサキが作り出した時の歪みへと最大まで注ぎ込んだ。
空間は、私たちを拒絶するように激しくねじ曲がった。
「逃げるぞ!」
クロード王子は、私とセバスチャンを抱え、その時空の歪みの中へ飛び込んだ。
「待ちなさい、ユナ!この勝負は、まだ終わってないわ!」
ミサキの憎しみに満ちた叫びが、背後で響き渡った。




